放課後。
クラスメイトが雑談をしながら少しずつ帰って行く中、前の席の奴が俺の方を振り向いた。
これは断ってもこいつがめげない感じのやつだ、と俺は悟った。
生温い微妙な返事をして、俺は席を立つ。
複数のクラスメイトがこちらをチラチラ見ていが‥‥‥
遠藤、このままで大丈夫なのかよ。
廊下を歩きながら、遠藤は嬉しそうに言った。
‥‥‥何で嬉しそうなんだ?
俺は眉間にしわを寄せる。
気付けば、大きな声で怒鳴っていた。
怒鳴り散らして息を切らす俺に対し、遠藤は嬉しそうに笑う。
にしし、と笑う遠藤に肩を落とす。
こいつ冗談言う奴には見えないな、と少し思った。
遠藤は俺の頭に手を伸ばし、わしゃわしゃと頭を撫でる。
ぴたり、と俺の頭を撫でる手が止まる。
遠藤は下を向いてそう呟いたので、表情が読み取れなかった。
俺の頭にある手を払うと、俺はスタスタと早歩きで昇降口へと向かった。
すると、後ろから遠藤の大声が聞こえた。
俺が大声を出した時点で注目されていたわけだが、遠藤の大声が追加されたことによって教室の中から廊下を覗く奴も出てくる。
俺は直ぐさま遠藤に駆け寄り、遠藤の口を押さえた。
小声でそんな事を言うが、遠藤は俺の手を退けてニコリ、と笑う。
話通じねぇぇぇぇ!!
というか地味に周りに聞こえるような声で言うなし‥‥‥
そうは言ったものの‥‥‥相変わらず遠藤は笑いやがる。
話を聞けぇぇぇぇ!!
華麗にスルーするなし‥‥‥気が狂うわ、この馬鹿野郎が。
うん、駄目だ。
‥‥‥そう、悟った俺であったとさ。
前を向く遠藤は、ぽつりと何かを呟く。
『誤解、解けましたしね』
表情が見えないし、何言ったかも分からなかったけど、何故だか少し楽しい気分だ。
俺は、遠藤ににやっと笑ってやる。
すると、遠藤はきょとんとしてから笑って、
と言った。
鈍感かと思えば鋭いのか、こいつはよく分からない性格をしている。
俺はそう言って、また歩き始める。
もしかしたら、こんなに心から笑って楽しかったのは、初めてなのかもしれない。
何か少し夢の展開早いなぁ‥‥と思いながら俺は、遠藤の後ろに付いて行った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!