第24話

弐拾肆
508
2019/11/03 11:33
放課後。
クラスメイトが雑談をしながら少しずつ帰って行く中、前の席の奴が俺の方を振り向いた。
遠藤 由鶴
波戸くん!一緒に帰りましょう!
これは断ってもこいつがめげない感じのやつだ、と俺は悟った。
芦阿 波戸
おー
生温なまぬるい微妙な返事をして、俺は席を立つ。

複数のクラスメイトがこちらをチラチラ見ていが‥‥‥
遠藤、このままで大丈夫なのかよ。
遠藤 由鶴
そうですかー、波戸くんは不良ですかー
廊下を歩きながら、遠藤は嬉しそうに言った。
‥‥‥何で嬉しそうなんだ?
芦阿 波戸
どーした急に
俺は眉間にしわを寄せる。
遠藤 由鶴
いやー、不良さんは皆波戸くんみたいに優しいのかなーと思いまして!
遠藤 由鶴
一度、そこら辺の不良さんたちに話しかけて友達にな‥‥‥‥
芦阿 波戸
やめろ!!
気付けば、大きな声で怒鳴っていた。
芦阿 波戸
お前怪我したいのかよ!金巻き取られたいのかよ!巫山戯んな!!
芦阿 波戸
絶対に不良に近付くな!
怒鳴り散らして息を切らす俺に対し、遠藤は嬉しそうに笑う。
遠藤 由鶴
冗談ですよ、冗談
遠藤 由鶴
相変わらず波戸くんは優しいです
にしし、と笑う遠藤に肩を落とす。
こいつ冗談言う奴には見えないな、と少し思った。
芦阿 波戸
優しい?お前、頭おかしいんじゃ‥‥‥‥おわっ!?
遠藤は俺の頭に手を伸ばし、わしゃわしゃと頭を撫でる。
遠藤 由鶴
優しいですよーっ!
遠藤 由鶴
それと‥‥‥
ぴたり、と俺の頭を撫でる手が止まる。
遠藤 由鶴
「不良に近付くな」なんて言ってましたけど、波戸くんも不良です
遠藤は下を向いてそう呟いたので、表情が読み取れなかった。
芦阿 波戸
だから言ってんだろ。不良に‥‥俺に近付くな
俺の頭にある手を払うと、俺はスタスタと早歩きで昇降口へと向かった。

すると、後ろから遠藤の大声が聞こえた。
遠藤 由鶴
僕はぁぁぁ!波戸くんのぉぉぉ!お友達ぃぃぃ!なのでぇぇぇ!べったりぃぃぃ!くっつきぃぃぃ!ますよぉぉぉぉぉぉ!!
俺が大声を出した時点で注目されていたわけだが、遠藤の大声が追加されたことによって教室の中から廊下を覗く奴も出てくる。
芦阿 波戸
ばっ、馬鹿かあいつ‥‥‥!
俺は直ぐさま遠藤に駆け寄り、遠藤バカの口を押さえた。
芦阿 波戸
転校初日で変人かますな馬鹿!
小声でそんな事を言うが、遠藤は俺の手を退けてニコリ、と笑う。
遠藤 由鶴
お友達です
話通じねぇぇぇぇ!!
というか地味に周りに聞こえるような声で言うなし‥‥‥
芦阿 波戸
俺と友達になってもロクな事ねぇからやめとけ!というか友達になった覚えはねぇ!
そうは言ったものの‥‥‥相変わらず遠藤こいつは笑いやがる。
遠藤 由鶴
さっ、帰りましょう!
話を聞けぇぇぇぇ!!
華麗にスルーするなし‥‥‥気が狂うわ、この馬鹿野郎が。
遠藤 由鶴
今日は肉じゃがなのでお裾分けしてあげます!
芦阿 波戸
先にそれを言うか普通‥‥‥
遠藤 由鶴
肉じゃがレッツゴー!
うん、駄目だ。
‥‥‥そう、悟った俺であったとさ。
遠藤 由鶴
それにもう‥‥‥
前を向く遠藤は、ぽつりと何かを呟く。


『誤解、解けましたしね』


表情が見えないし、何言ったかも分からなかったけど、何故だか少し楽しい気分だ。
芦阿 波戸
迷惑料として肉じゃが多めな
俺は、遠藤ににやっと笑ってやる。
遠藤 由鶴
じゃあ、肉じゃがのじゃが多めで!
芦阿 波戸
肉じゃなくてじゃがなんだな。というか冗談通じねぇのかよお前
すると、遠藤はきょとんとしてから笑って、
遠藤 由鶴
さぁ、どうでしょう
と言った。

鈍感かと思えば鋭いのか、こいつはよく分からない性格をしている。
芦阿 波戸
曖昧なんだよばーか
俺はそう言って、また歩き始める。

もしかしたら、こんなに心から笑って楽しかったのは、初めてなのかもしれない。

何か少し夢の展開早いなぁ‥‥と思いながら俺は、遠藤の後ろに付いて行った。

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