エレベーターの扉は、いつにも増してゆっくりと開き始めた。
エレベーターの扉の隙間から見える光景。
それは、ホールだった。
エレベーターの扉が完全に開いたのを確認し、ホールへと足を踏み入れる。
何となく後ろを振り向くと、もうそこにエレベーターは存在しなかった。
ホールには、大学生から中年の人まで沢山の人がいた。
ここにいるほぼ全員が、理解不能、という顔をしている。
‥‥‥‥高校生らしい人はいない。
まあ、高校生になって罪を犯すとか少年院行きだろうからここにいるのはおかしいか。
例外一名、発見。
突如話しかけてきたこの元気そうな女子は、頭の高い位置で茶色がかった髪を一つに結んでいる。
この女の子はどうやらクラスの中心にいるタイプの女子らしい。
これは、自己紹介をしなければならないパターンだ。
すると、中島春はポニーテールを揺らしながら、そうかー、蛍ちゃんかー、可愛い名前だねぇ、と私の名前を連呼した。
馴れ馴れしいな、この人。
そんなことを思っていると、またしても元気そうな男子が声をかけてきた。
暑苦しいな、こいつら。
どうやら、私と同じ気持ちの人一名いるらしい。
中島春を嫌そうに見つめるこの黒髪の青年は、イケメンという類いに入りそうな人だ。
ついでに、あの暑苦しい栗色の髪をした青年もイケメンという類いに入りそう。
中島春は‥‥‥美人というより可愛い系だ。
本当に嫌そうな顔をしている。
すると、黒髪の青年は大きな溜息を吐いてから口を開いた。
その時岡奏に「苦労してるね」と私が目で話しかけると、時岡奏は「君もか‥‥」という顔をした。
そして、暑苦しい二人を無視し、私と時岡奏はホールの端へと移動する。
何となくは想像していたが、ホールの端は静寂に包まれていた。
それを切ったのが、時岡奏だったことは以外だけど。
そう聞かれて、さっきの時岡奏のように応える。
私は、確かに、と相づちをうった。
私よりはるかに背の高い時岡くんを見上げると、目が合った。
名前を呼ばれて、一瞬心臓が跳ね上がった。
呼んでみただけ、っていうパターンね。
私はやり返すかのように時岡くんの名前を呼ぶ。
けれど時岡くんは、微動だにもせず私と目を合わせた。
すると、時岡くんは可笑しそうに微笑んだ。
────────この人、よく分からない。
数分経ったところ、ホールにアナウンスが流れた。
‥‥‥その声は、とても楽しそうだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!