第37話

参拾漆
364
2020/10/20 11:53
中島 春
───────こんな、感じかな
自分の“罪”を話し終えた春は、下げていた顔をゆっくりと上げる。
中島 春
ハルちゃんのあの発作は、病院でなら早く対応できていたんだろうけど····裏山にいたから、対応が遅れたんだよね
中島 春
春ちゃんはまだ生きてるし、植物状態でもない。でも····
そうしてまた、春は泣きそうになりながら視線を落とした。
中島 春
もう、もう二度と、病院じごくから出られなくなっちゃった
その声は、春のものでないと思えるほどか細く、震えている。
中島 春
海行こう、って。病気なんて早く治して、一緒に海を見ようって。そう、約束したのに。····その病気が治らなくなったらもう駄目なのに
中島 春
ハルちゃんの大切な夢を、私のたったひとつの我儘で駄目にしてしまった
はらり、はらり。春の揺れる瞳から雫がこぼれ落ちた。
そんな春に芦阿先輩は少し動揺しながらも、その震える背中に手を置く。
中島 春
····それ以来、怖くて病院なんて行けなかったし、私は苦労もせず楽しく毎日を過ごした
中島 春
最低だ
中島 春
それを最低と分かっていても、日常を変えようとしなかったことが、一番の最低最悪
中島 春
ハルちゃんのおばあちゃんにどれだけ怒鳴られても、自分の家族にどれだけ迷惑かけても、まだのうのうと“楽しい日常”に浸っている
中島 春
ハルちゃんが苦しんでるであろう間、ずっと、ずっと
下を向いている春の顔は分からない。
けど、泣いているのだけは分かる。

後悔とか、涙とか、他より無縁そうに見える春。
それに、病弱だったなんてそんな。
そんなこと、考えもつかない。
芦阿 波戸
─────春ちゃん、こっち向いて
すっ、と春の両頬に芦阿先輩の手が触れる。
芦阿 波戸
唇、噛んじゃ駄目だよ。····あー、ほら、血が出てる
中島 春
血の味、します···
芦阿 波戸
うん。だから、噛んだら駄目だ。手も。そんな力入れたらスカートクシャクシャになるから
中島 春
····はい
春が力んでいた手をほどくと、芦阿先輩は満足したのか少しだけ笑みをのこぼした。

それを黙って見ていた時岡くんは、「親子かよ」と冷静につっこむ。
え?何でもない顔で女の子の両頬に触れるとか芦阿先輩強すぎるとか思ったの私だけですか?
時岡 奏
····で、次。俺が話して良いか
中島 春
どうぞ!
芦阿 波戸
どうぞどうぞ!
····そういえば。
一番最初のゲームの時に春が零した言葉。

“似てたから、声が聞こえたのかもしれない”

似てたとは、誰にだろうか。
さっきまで私は春のことかと思ってたけど····

そうか。きっと、似ていたのは─────
中島 春
蛍?どーしたのボーッとして
鳥羽 蛍
えっ····あ、ううん、何でもない
──────きっと、「ハルちゃん」だ。
時岡 奏
じゃあ、話すよ
時岡くんは息を吐く。
それは何の感情なのだろう。

真っ黒で、感情のない、時岡くんの瞳が私たちを捉えた。
時岡 奏
俺は──────





























────罪のない人の縋る手を、払い除けた。



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