自分の“罪”を話し終えた春は、下げていた顔をゆっくりと上げる。
そうしてまた、春は泣きそうになりながら視線を落とした。
その声は、春のものでないと思えるほどか細く、震えている。
はらり、はらり。春の揺れる瞳から雫がこぼれ落ちた。
そんな春に芦阿先輩は少し動揺しながらも、その震える背中に手を置く。
下を向いている春の顔は分からない。
けど、泣いているのだけは分かる。
後悔とか、涙とか、他より無縁そうに見える春。
それに、病弱だったなんてそんな。
そんなこと、考えもつかない。
すっ、と春の両頬に芦阿先輩の手が触れる。
春が力んでいた手をほどくと、芦阿先輩は満足したのか少しだけ笑みをのこぼした。
それを黙って見ていた時岡くんは、「親子かよ」と冷静につっこむ。
え?何でもない顔で女の子の両頬に触れるとか芦阿先輩強すぎるとか思ったの私だけですか?
····そういえば。
一番最初のゲームの時に春が零した言葉。
“似てたから、声が聞こえたのかもしれない”
似てたとは、誰にだろうか。
さっきまで私は春のことかと思ってたけど····
そうか。きっと、似ていたのは─────
──────きっと、「ハルちゃん」だ。
時岡くんは息を吐く。
それは何の感情なのだろう。
真っ黒で、感情のない、時岡くんの瞳が私たちを捉えた。
────罪のない人の縋る手を、払い除けた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。