私はゆっくりと瞼を開ける。
そして朦朧とする意識を治すように、2、3回ぱちぱちと瞬きをする。
ガバッと起き上がる。
あたりを見渡す。どうやら寝ていたようだ。
やっとか、というような顔をしてこちらを振り向く五条先生。
よく見ると、五条先生のかけているサングラスの下からクマが見えた。
そしてここは高専の医務室。ベッドで寝かされていたようだった。
疑いがかった目を向けながら、口を開く。
重い口から、すっと言葉が出てくる。
普通の言葉を喋れたことに、私は驚きを隠せなかった。
え………
それは、五条先生を呪うということに等しかった。
いくらふわふわしていてうざいからと言って、呪うのは胸が痛かったが、私は五条先生を信じて口を開いた。
へ?
と、五条先生は私の隣のベッドに腰掛ける。
驚いてあたりを見渡し、たまたま目に映った鏡を見る。
なんとも驚くことに、口から伸びていた呪印が消えていた。
急いで舌を出す、が____そこもまた、呪印が無かった。
普通に会話できる、とは?と思ったけれど、
落ち着いて、ゆっくり深呼吸して、口を開いた。
私の言葉は、まるで初めて聞いた英語をそっくりそのまま話そうとしている子供の様にカタコトで。
飽きるほど聞いてきた言葉なのに同じように発音が出来ないことに少しもどかしさを感じた。
それでもどうにか、口を開く。
無意識に、目に涙が溜まり、やがて頬をつたう。
すると先生は立ち上がり、私のベッドの隣でしゃがみ込んだ。
そして……
付けていたサングラスを、泣いている私に優しく掛けてくれた。
サングラスに水滴がポタポタと落ちていく。
次第に視界は歪んでいった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。