一松が、俺のことをチラ見して、目が合えばスグに反らしている。
今の一松は、恋する乙女みたいだな。
一松は、カタコトな返事をしながらも、俺の方へ顔だけは向けたが目は反らしたままだ。
気に食わないな。
話は、目を見て聞くものだろ?
口が悪いのは分かってる。
でも、世間一般な事は出来てもらわないと困る。
だから、厳しく言うんだ。
まぁ、俺に関しては厳しく言い過ぎらしいけど。
一松は、ビクッと肩が跳ねたかと思えば涙目になる。
またか。
実はコレで3回目だ。
前は、十四松やトド松を今みたいに泣かしたんだ。
十四松に関しては、泣きながら一松にチクりやがってさ。
“チョロ松が、ぼくの事をイジめた”って一松に抱き着きながら言っていたのを嫌でも聞こえてきて、その日は一松に冷ややかな目で睨まれたっけ?
トド松の時は、カラ松から殴られた。
“末っ子を泣かせるな”
カラ松の口から放たれた、“末っ子”って用語には今も引っかかる。
トド松が末っ子??って。
トド松には、他の家の兄弟の末っ子が持つ様なポテンシャルが見られない。
ワガママな所は末っ子その者だが、甘えん坊って感じは全然ない。
一人じゃ何もできない、やらないのは俺から見たらワガママにすぎない。
トド松は、喧嘩やイタズラに積極的なノリのいい奴だ。
だから、嫌いではない。
でも、女の子に対して馴れ馴れしい所は気に食わない。
馴れ馴れしい所を直せとアイツの為に言っただけなのに、“オレの事、嫌いだからそうやっていじめるんだろ?”って泣きながら呟き、去っていくトド松の後ろ姿は未だに忘れられない。
僕って…ダメな兄貴だな。
六つ子だから、上下関係気にしてないし、いらない物だろとか思ってるけどさ。
やっぱり、長男と末っ子だけ分かってるとなると、自分は何番だ?って気になって来たりする。
そんな事を考えていたら、ずっと黙って泣いていた一松が口を開いた。
いや、僕だけ見れないとかなんだよ!
地味に悲しくなるぜ?
一松の顔を見れば、さっきより赤くなっていた。
おいおい。冗談寄せよ。
口籠る一松。
それを見て、また僕はイライラしだす。
男のクセにモゴモゴと!
俺はホントの事を言った。
そしたら、また焦りと動揺からか涙をボロボロ流しながら、“違う…違うのに…”と言っている一松。
あぁ、イライラする。
おそ松が言ってた、“考えすぎてストレス溜め込んでハゲるぜ?”はこの事か。
うぇ、ハゲたくねぇ…。
自分でも赤くなるのが、嫌でもわかる。
心臓の動きも速くなる。
一松は同じ顔で六つ子の一人だ。
兄弟でしかも男同士。
いや、別に僕は男もイケるから構わないけど…。
まさか、怖がられていて、最悪嫌われているだろう相手の一人から、熱烈な告白を受けるとは。
なんで、怖がられているかって?
それは…まぁ、色々あったからだい。
詳しくはネタバレだから言わないけどな。
気持ち悪いも何も、俺はバイ(バイセクシュアルの略)だからな。
男からの告白にも、キスにも何とも思わないんだよ。
バイは簡単に言えば、両性愛者だ。
両性愛者は、同性、異性どちらも恋愛対象に見れる人のことだぜ?
僕は、その部類だから一松と付き合う事だってできる。
俺は、笑顔で一松に返事をする。
一松は、“本当?”って言いたげに顔を上げた。
つか、まだ信じてないみたいだな。
こんな奴には、あの手段で分からすしかないよな。
僕は、身を乗り出して一松の右頬に手を添えた。
言い終わる前に口を塞いでやる。
まぁ、軽いものだからスグに離す。
一松は、さっきまで赤くしていた顔を更に赤くさせていた。
えぇ…怒られた。
軽い気持ち…。
そう言われたよりも、自分を否定されたのが嫌だったのか胸が痛む。
謝るしかないよな。
一松が望むものは、両思いだけだと思ってたから油断した。
正論を言われて、俺は沈む。
初めて負けた。
胸の痛みはさっきより酷く、締め付けられる感じが加わった。
コレじゃ…まるで…。
俺は、一松の右手を掴めば自分の胸に当てた。
一松はまたもや動揺する。
さっきまでの怒りは無くなり、その代わりに空いてる方の手で顔を隠す仕草をしていた。
待てよ?
コイツ…めちゃくちゃ可愛くね?
ちょ、今デレたのか?可愛すぎだろ。
このままじゃ、僕の理性のほうがやべぇわ!
てか、なんだよこの流れ!
隠し事を聞き出すつもりが説教して、そのまま好きだと告白されて、最初は軽い気持ちでしたキスだったけど一松に泣かれて、胸のあたりが痛んで…今に至るって。
急展開すぎるだろ!意味わからねぇよ。
……。
つまり僕は、無意識に一松を好きだったってことなのか?
確かに、一松は声が高くて可愛いな思ってたけど。思ってたけど!
それが、恋愛感情だなんて誰だって思わねーだろ!
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。