五条先生の車から降り、生い茂る森の中に建つ立派な木造旅館を眺める。
私達は今日から関東近郊で2泊3日の温泉旅行に訪れていた。
私の中学時代の友達が穴場の温泉地を以前教えてくれたのを思い出して、そこに決めたのだ。
この旅行を計画したのが3ヶ月前で、先生と私は連休を取るためにもの凄く多忙な日々を送り、努力が実って遂に実現したこと。
背伸びをして、先生の頭を撫でる。
後ろのトランクを開けて、荷物を全て下ろしてから旅館まで向かう。
先生の術式で一瞬で来れるのでは思ったけど、これもいいじゃんって彼はその案を突っぱねた。
先生とここに来るまでの道のりを思い出せば、笑みが自然と浮かんでくる。
先生の後を追い掛けて、旅館の入口へと向かった。
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私達は一旦荷物を部屋に置いてから、もう一度駐車場に戻って車に乗り込む。
これから向かうのは日本一美しいと言われている花畑が見れる大きな森林公園だ。
開いていたガイドブックを思わず落としてしまい、慌てて拾う。
そんなくだらないことを話していると、旅館から距離がないからかあっという間に目的地へと着いた。
車を駐車場に止めてから、私は目の前に広がる絶景に駆け出してしまう。
先生も私の隣に立って、広大な緑の景色を眺める。
頬に手を添えられ、ゆっくりと額に口付けを落とされる。
それから、私達は丘を降りて森林公園へと歩き出す。
水が湧き出る小川の横を通りながら、花畑を目指していると木の上にリスがいるのを見付けた。
あまり大声で言わないように気を付けながら、指を差すと先生も一緒に上を見上げる。
五条先生は私の手を取るなり、自分の手と絡めて俗に言う恋人繋ぎをする。
この時、木の上からリスは此奴ら何なんだと蔑むような目で見ていた。
手を繋ぎながら歩けば、次第に開けて写真で見た通りの花畑が視界に映る。
片手でポッケからスマホを取り出して、写真を撮ろうと何気なく先生の方を向いたら横顔があまりにも綺麗で。
私は思わずカメラを先生に向けてしまう。
スマホを持った私の手に先生の手が重なり、顔を覗き込むように優しく笑ってきた。
それが景色とマッチングしていて、あまりの美しさに目が逸らせない。
顔を赤らめながらそう告げると、先生にもうつったのか耳元がほんのりと赤く染って。
先生は私のスマホを取り上げると、カメラを向けてきてパシャリと写真を撮った。
すると、先生は肩に腕を回してきて身体を密着させながらスマホを上に傾ける。
内カメに切り変わった瞬間、先生と私は同時に微笑んだ。
今日の思い出が、深く残るように。
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更新が遅くなってしまい、申し訳ないです…!
やっと受験が終わりまして…一山超えたのでこれからバンバン更新していくのでまたよろしくお願い致します!
次話も温泉旅行の続きになります。多分…ちょっとえっちなお話…になると思いますのでお待ち頂けると嬉しいです🙇
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!