第3話

第3話

これは去年の夏、私が高校1年生の時の話。


帰りのHRが終わって、部活に急ぐ人たちや帰りにどこか寄ろうと話す人たちを横目に私も家に帰ろうと廊下に出ると担任の先生に呼び止められて……


「悪いけど花壇の草むしり頼むな」


なんて軽い口調で重大任務を任されてしまった。

あの広い花壇の草むしりをたった一人でやるなんて無謀じゃないのか…。

頼まれてしまった手前帰ることも出来ずに、重い足取りでグラウンドに向かった。





───────
...................



「こんなの終わらないよ…」

草むしりを始めてどれくらい経ったかはわからないけれど、一向に草の量が減らない。


「抜いても抜いてもすぐ生えてきてるみたい……はぁ」


途方に暮れて溜息をついた時、



「危ない!!」という焦った声のすぐあとに後頭部に鈍い痛みが走って私の体は花壇の中に投げ出された。


つまり今の私は土の上に突っ伏した状態にあるわけだ。


なんでこうなった?一体何が起きた?


土の上でグルグル考えを巡らせていると、いきなり体が起き上がって新鮮な空気が肺に入ってきた。


「ねぇ君、大丈夫!?息してる!?俺の声聞こえてる!?」

私の耳元で大声で叫ぶ人。

どうやらこの人が私を起き上がらせてくれたらしい。



「………っ!!」

肩を揺さぶられて私はハッと我に返った。



「大丈夫??ごめんね、俺の打ったボールが当たっちゃって…」



「いえいえ私は大丈夫なのでお構いな……」



その瞬間時が止まったような気がした。

言葉が喉に詰まって出てこなかった。



「本当に大丈夫?すっごく鈍い音してたから念の為病院も行った方が……」


目の前人の言葉は右耳から入って左耳から出ている状態で何も頭に入ってこない。


ただただ、目の前の人に目を奪われていた。


この時にはもう私は篠原くんに恋をしていた。


こんな漫画みたいな展開が私の人生の中にあっていいのかなんて割と真剣に悩んでいたけど起きてしまったものは仕方ない。




「あ、の」


やっと絞り出した声は蚊の鳴くような声だった。

それでも彼の耳には届いたようで、


「ん?やっぱり頭痛いよね……」


「あ、そうじゃなくて…本当に大丈夫なので……」



彼が着ているのはテニスのユニフォーム。

テニス部なのだろう。

ということは今は部活中、私なんかに時間を割くなんてもったいない。




「おーい!!篠原ー!!!」


「……どうしよう」


遠くから彼の名前を呼ぶ声が聞こえて更に困った顔になる。

彼に心配をさせないためにまだズキズキと痛むのを我慢して立ち上がる。


「部活行ってください!ほら、汚れたの私だけですし、花もちゃんと無事なので!!」


ジャーンと無傷の花たちを見せると、彼は安心したように優しく笑って、


「ありがとう……あ、待って…はい!これ使って」


彼はズボンのポケットからミニタオルを出して私の手に置いた。


「顔が汚れちゃったからせめてそれだけでも」

「あ、ありがとうございます!」

「ううん!こっちこそ本当にごめんね。じゃあ」

「はい、あ、」

駆け出しそうな彼を引き止めて、




「がんばってくださいね!!」

精一杯の笑顔で言った。



「…………っうん!!」

彼はもう一度笑ってコートに戻って行った。