第8話

推し
852
2026/04/04 11:00 更新


ヤチリュカップ。
夏休みの期間で獲得した新規ファンの人数を競うランキングだ。
ブラックオニキスが他のライバーたちの追随を許さず、一位を独走しているなか、一組みだけとんでもないスピードでランキングを上げているところがあった。
かぐや
『かぐやっほ〜!今日はねぇ、ゲリラ歌配するよー!!!』
もちろん、かぐやといろpのチームである。
織姫がかぐやと出会い、ライバーのなり方を教えてから早数日。
織姫もたまにコラボしていたとはいえ、かぐやいろpの快進撃は大変素晴らしかった。
かぐや
『まずは「私はわたしのことが好き」から!』
かぐやは配信初心者。
つまりライバーについてなんてこれぽっちも知らないため、何でもかんでも思いついたことをやっている。
じゃないと、誰が海苔巻き一口挑戦や水蒸気ミサイルの発射なんて無理無謀なことをするのか。
それを見た帝は、楽しそうに笑い声を上げた。
帝アキラ
ははっ、お前のとこの後継、ぶっ壊れてんなー
織姫
そうでしょう?
乃依
なんか織姫、楽しそ~
前よりも生き生きしているな
織姫
ふふっ、確かにかぐやさんやいろpさんとお話しするのは楽しいですよ。
私では到底思い付かないことをいろいろ挑戦してくださいますから
そう言った織姫はどこか寂しそうに、配信画面に映るかぐやの方へ手を伸ばした。
織姫
・・・やはり、私とは違うのでしょうね
乃依

織姫、なんか言った?
織姫
いいえ、なんでもありません。
ただの独り言です
乃依
帝アキラ
独り言なら、それでいい。
それよりも、問題はかぐやちゃんといろpチームのランキングでものすごい勢いで上がってるってことだ
乃依
えー、でもこの前200位くらいだったじゃん。
警戒する必要なんてある?
280位だ
乃依
そんな細かい数字はいいから
織姫
あら、最初は8000位くらいでしたのに随分とランキングを上げられたのですね
帝アキラ
知らなかったのかよ・・・
織姫
私が教えたのは、ライバーのなり方、そのイロハくらいなものです。
ヤチリュカップについては、何もしてませんよ。
それに、かぐやさんでしたらきっと私の手助けなんてなくとも、ランキング上位に上り詰めていたでしょう
そう言った織姫は、静かに目を伏せると眩しそうに画面の中で歌うかぐやの方を見つめた。
織姫
それで?
ブラックオニキスとしてはどうなさるおつもりなのですか?
帝アキラ
もちろん、このままトップ独走をキープする。
超新星に負けてたまるかよ
乃依
それなら、別にこのままでもいいんじゃない?
このまま行ってもヨユーで勝てるでしょ
確かに
織姫
ランキングだけ見たらそうでしょうね。
でも、彼女には惹きつけられる光がある。
もし、その光が輝く場所を見つけたら、その光は周りの光をも飲み込んでしまいますよ
乃依
どういうこと〜?
つまり、今の彼女たちは輝く場所がないだけ。
輝く場所さえ与えればもっとファンを増やすってことか?
織姫
ええ、そういうことです
乃依
こっわw
織姫
実際、帝さんもかぐやさんのファンになられたようですしね
乃依
は?
全員の目が帝に向けられる。
当然、帝は少しだけが悪そうな顔をした後、いつもの余裕満々な笑みを浮かべた。
帝アキラ
お前らだって、推しの一人二人はいるだろ?
それと同じだよ
乃依
えー、帝ないわー
織姫
まぁ、推しを応援したいという気持ちはわかりますが
ブラックオニキス(帝 乃依 雷)
!?!?!?
織姫がぼそっと何かをつぶやいた瞬間、ピンポンという無機質な音が響いた。
織姫
すみません、私です。
どうやら来客か宅配のようですので、見てきますね。
本日はこの辺りで
そう言った織姫は手早くログアウトしてしまった。
残されたのは、驚愕の表情を浮かべている帝、乃依、雷だけ。
乃依は、織姫が消えた水色の光を食い入るように見つめた後、仕方がなさそうにため息をついた。
乃依
はぁ、また逃げられたし・・・
織姫にも推しがいるんだな
帝アキラ
乃依とか雷に推しがいるのはいいが、あいつの推しってなると、なーんか気になるよな
乃依
確かに。
織姫が今、後継を育ててるなら、俺らが今の織姫を育てたんだもん。
娘の推しくらい把握しとかないと
帝アキラ
ま、俺ら以外だったら許さねーけどな
乃依
トーゼンじゃん🎵
当たり前だな
悪やかな笑みを浮かべた3人は、最初出会ったばかりの織姫のことを思い出していた。
乃依side
最初、ブラックオニキスは俺と兄貴、そして帝だけのチームでデビューするはずだった。
お互いのことは、大会とかで知ってたし、帝がどうしてもって言うのならって感じで俺や兄貴も加入を決めた。
織姫と出会ったのは、ブラックオニキスを結成する直前、たまたま3人で野良マルチをしていた時だった。
帝アキラ
今んところ、全勝だな。
このままもう一戦、行けるか?
乃依
とーぜん。
むしろ、張り合いなさすぎてつまんなーい
帝アキラ
確かに、この3人ならもっと強いやつと当たってもいいな
だな。
えっと、次の対戦相手は・・・
帝アキラ
名前がないやつと、その他2人だな
乃依
名前がないー?
アバター名つけてないってことー?
珍しいな
帝アキラ
まぁ、どんな奴が相手でも勝つのは俺たちだけどな
観客モブ
はっ!
今度こそ、お前らなんかに負けるかよ!
今日がお前の最後だ!
乃依、雷、帝!
乃依
・・・誰?
観客モブ
お前!
俺のことを忘れたのか!?
帝アキラ
覚えてないな
乃依
しらなーい
お前ら・・・この前の大会で決勝の相手だった奴らだよ。
多分
乃依
あー、そう言われればいたかも。
そんな奴
観客モブ
ちきっしょう!
馬鹿にしやがって!
おい、お前もなんとか言いやがれ!
・・・初めまして
俺らが話していた時に、背後から声をかけてきた少女。
それが織姫だった。
まあ、当時の織姫はアバター名なんてつけてなかったから、名無しが適当なんだろうけど。
帝アキラ
あんたが、もう1人の対戦相手か?
はい。
よろしくお願いします
帝アキラ
名無しに初期アバターってことは、お前が最近話題になってる「糸遣いの姫君」か?
観客モブ
「糸遣いの姫君」?
帝アキラ
あぁ、こっちの話だ。
とりあえず、よろしくな
はい。
いい試合にしましょうね
この頃の織姫は、まだよくわからなかった。
アバター名もつけてなかったし、そのアバターだって初期にイメージ図としてツクヨミから提案された姿のままだったし。
正直、始終ニコニコしていて、気持ち悪かった。
ただ、俺らに取り入ろうとしているだけの女だと思ったくらいだ。
乃依
つまんないやつ・・・
それくらい興味のわかない存在だったから、どーせ、すぐ終わるって決めつけて会話に入ろうともしなかった。
だけど、対戦が始まればそんな考えはひっくり返された。
乃依、こっちはもう終わったぞ
乃依
オッケー、こっちも落とした
帝アキラ
んじゃ、後は大将落としで城落とせばいいだけか
こっちのトライデントで始まった対戦は、相手チームのあまりの雑魚さも相まって、あっという間に勝負がついた。
向こうは残機ゼロ。
対してこちらは、まだまだ残機も残ってるし3人とも元気だ。
だから、目の前の少女に勝ち目なんか全くないわけで。
ふふっ、やはりさすがはプロゲーマーの方々ですね。
お強いです
乃依
そういうそっちの二人は雑魚すぎじゃない?
おい、乃依。
そう言うことはあまり言ってやるな
そこは否定しませんよ。
第一、あのお二方が作戦も決めずに飛び出すから。
フォローが大変だったのです
帝アキラ
ははっ、確かに効率のいい連携が取れた動きではなかったな
乃依
俺たち相手に、トライデントで挑もうとするんだもん~。
バッカみたい
舐められていると思って、悔しかったんだろう
そうでしょうね。
全く、冷静さを欠いて失敗するとはまさにこのことです
帝アキラ
で?
長々と話してるけど、あんたで俺らを止められんの?
ふふっ。
長々と話してくださり、ありがとうございます。
・・・あなた方は私の術中ですから
ブラックオニキス(帝 乃依 雷)
!?!?!?!?
そう言って彼女が微笑んだ瞬間、体に何かが巻き付く。
動いても、もがいても全く取れない銀色のそれは、糸。
乃依
なっ・・・!!!
俺も長い間KASSENをしてるけど、武器にワイヤーを仕込む人は見たことあっても、糸単体で戦っている人なんて見たことない。
糸武器か。
珍しいな
糸武器は長さ制限のない4本の糸を瞬時に出して、敵を縛り付ける武器だ。
ネバネバとした動きで相手を捉える粘糸、とにかく硬い糸で防御も可能な綱糸、そして触れるだけで体が裂けてしまう鋭糸。
それらを使い分けて戦う武器なのだが、扱いが難しくそれを使っているのなんて、ほんの一握りだろう。
帝アキラ
綱糸のほうか。
・・・ははっ、そっすが「糸遣いの姫君」
お褒めに預かり、光栄です
俺らにも気づかれないように、会話の際のわずかな動きで糸を張り巡らせていた、というわけだな
乃依
そんな冷静な分析はいらないから。
さっさと出る方法を考えなよ!
帝アキラ
諦めろ、乃依。
これは俺の突破力があっても、無駄だってことは知ってるだろ?
乃依
それはそうだけど・・・
仮にここを抜けられたとしても、第二、第三の糸が迫ってくるだけだ
帝アキラ
これは、してやられたな。
俺たちが集まったところを狙い撃ちか
はい。
御三方が集まってくださって、助かりました
普段、俺たちは集まったりなんかしない。
俺と兄貴が櫓を落として帝が城を落とす、それで俺たちの勝ち。
だったけど、あまりに張り合いがなさすぎて集まってしまったことが裏目に出た、と言うわけだ。
帝アキラ
すべてがそっちの思い通り。
そういうわけか
それは違いますよ。
たまたまです
そう言って微笑んだ彼女は、どこか満足げに微笑んだ。
今までの胡散臭い、貼り付けたような笑顔とは違う、子供が親にめて欲しい時に浮かべるような、得意げな表情。
乃依
!!!
その瞬間、俺の体に稲妻が走った。
可愛い、可愛い・・・愛おしい。
今まで、胡散臭い笑みしか浮かべてなかった彼女のことを嫌っていたはずなのに。
一瞬で、考えを変えるなんてどうかしてる。
それでも、その笑顔が可愛くって、愛おしくって仕方がなかった。
さて
あ、戻った。
それだけで、なんだか寂しい気分になる。
こちらは両方の櫓も取られてますし、残機もゼロ。
反撃する手立てもありません
だからこその綱糸か
はい
帝アキラ
でも、もう負けを認めてるのなら、このまま俺らをいかせてくれてもよかったんじゃねぇの?
乃依
確かに、これじゃあ俺たちの足止めにしかならないもんね~
ふふっ、それでいいんですよ。
だって、私の目的は果たされましたから
本日、2回目の笑顔。
それを俺たちが忘れることなんて、多分一生ないと思う。
それくらい、綺麗で美しくて、それと同時に儚い、触れたら消えてしまいそなものだった。
彼女がふっと力を緩めれば、俺たちの体も自由になる。
さ、どうぞ。
行ってくださいな
帝アキラ
お、おぅ・・・
ふふっ
帝が城の方へ向かっていくのをただ静かに眺めていた彼女は、もう前までと同じつまんないやつになってて。
でも、それでも欲しいと思った。
どうしても、あの笑顔だけを浮かべて欲しいと思ったから。
できれば、俺の隣で。
そう思ったら、もう止まってなんかいられなくて。
乃依
ねぇ、一緒にブラックオニキス、やらない?
乃依side終了
今回の話も読んでくださりありがとうございます!
たくさんの⭐️と🩷、ありがとうございます!

今回はちょっと過去編になります


次の話は⭐️が87
もしくは🩷が10個付いたら投稿します

プリ小説オーディオドラマ