ヤチリュカップ。
夏休みの期間で獲得した新規ファンの人数を競うランキングだ。
ブラックオニキスが他のライバーたちの追随を許さず、一位を独走しているなか、一組みだけとんでもないスピードでランキングを上げているところがあった。
もちろん、かぐやといろpのチームである。
織姫がかぐやと出会い、ライバーのなり方を教えてから早数日。
織姫もたまにコラボしていたとはいえ、かぐやいろpの快進撃は大変素晴らしかった。
かぐやは配信初心者。
つまりライバーについてなんてこれぽっちも知らないため、何でもかんでも思いついたことをやっている。
じゃないと、誰が海苔巻き一口挑戦や水蒸気ミサイルの発射なんて無理無謀なことをするのか。
それを見た帝は、楽しそうに笑い声を上げた。
そう言った織姫はどこか寂しそうに、配信画面に映るかぐやの方へ手を伸ばした。
そう言った織姫は、静かに目を伏せると眩しそうに画面の中で歌うかぐやの方を見つめた。
全員の目が帝に向けられる。
当然、帝は少しだけが悪そうな顔をした後、いつもの余裕満々な笑みを浮かべた。
織姫がぼそっと何かをつぶやいた瞬間、ピンポンという無機質な音が響いた。
そう言った織姫は手早くログアウトしてしまった。
残されたのは、驚愕の表情を浮かべている帝、乃依、雷だけ。
乃依は、織姫が消えた水色の光を食い入るように見つめた後、仕方がなさそうにため息をついた。
悪やかな笑みを浮かべた3人は、最初出会ったばかりの織姫のことを思い出していた。
乃依side
最初、ブラックオニキスは俺と兄貴、そして帝だけのチームでデビューするはずだった。
お互いのことは、大会とかで知ってたし、帝がどうしてもって言うのならって感じで俺や兄貴も加入を決めた。
織姫と出会ったのは、ブラックオニキスを結成する直前、たまたま3人で野良マルチをしていた時だった。
俺らが話していた時に、背後から声をかけてきた少女。
それが織姫だった。
まあ、当時の織姫はアバター名なんてつけてなかったから、名無しが適当なんだろうけど。
この頃の織姫は、まだよくわからなかった。
アバター名もつけてなかったし、そのアバターだって初期にイメージ図としてツクヨミから提案された姿のままだったし。
正直、始終ニコニコしていて、気持ち悪かった。
ただ、俺らに取り入ろうとしているだけの女だと思ったくらいだ。
それくらい興味のわかない存在だったから、どーせ、すぐ終わるって決めつけて会話に入ろうともしなかった。
だけど、対戦が始まればそんな考えはひっくり返された。
こっちのトライデントで始まった対戦は、相手チームのあまりの雑魚さも相まって、あっという間に勝負がついた。
向こうは残機ゼロ。
対してこちらは、まだまだ残機も残ってるし3人とも元気だ。
だから、目の前の少女に勝ち目なんか全くないわけで。
そう言って彼女が微笑んだ瞬間、体に何かが巻き付く。
動いても、もがいても全く取れない銀色のそれは、糸。
俺も長い間KASSENをしてるけど、武器にワイヤーを仕込む人は見たことあっても、糸単体で戦っている人なんて見たことない。
糸武器は長さ制限のない4本の糸を瞬時に出して、敵を縛り付ける武器だ。
ネバネバとした動きで相手を捉える粘糸、とにかく硬い糸で防御も可能な綱糸、そして触れるだけで体が裂けてしまう鋭糸。
それらを使い分けて戦う武器なのだが、扱いが難しくそれを使っているのなんて、ほんの一握りだろう。
普段、俺たちは集まったりなんかしない。
俺と兄貴が櫓を落として帝が城を落とす、それで俺たちの勝ち。
だったけど、あまりに張り合いがなさすぎて集まってしまったことが裏目に出た、と言うわけだ。
そう言って微笑んだ彼女は、どこか満足げに微笑んだ。
今までの胡散臭い、貼り付けたような笑顔とは違う、子供が親にめて欲しい時に浮かべるような、得意げな表情。
その瞬間、俺の体に稲妻が走った。
可愛い、可愛い・・・愛おしい。
今まで、胡散臭い笑みしか浮かべてなかった彼女のことを嫌っていたはずなのに。
一瞬で、考えを変えるなんてどうかしてる。
それでも、その笑顔が可愛くって、愛おしくって仕方がなかった。
あ、戻った。
それだけで、なんだか寂しい気分になる。
本日、2回目の笑顔。
それを俺たちが忘れることなんて、多分一生ないと思う。
それくらい、綺麗で美しくて、それと同時に儚い、触れたら消えてしまいそなものだった。
彼女がふっと力を緩めれば、俺たちの体も自由になる。
帝が城の方へ向かっていくのをただ静かに眺めていた彼女は、もう前までと同じつまんないやつになってて。
でも、それでも欲しいと思った。
どうしても、あの笑顔だけを浮かべて欲しいと思ったから。
できれば、俺の隣で。
そう思ったら、もう止まってなんかいられなくて。
乃依side終了
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今回はちょっと過去編になります
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!