おっとりとした雰囲気が似合いそうな部屋に、場違いなほどけたましく鳴り響くチャイム音。
めんどくさそうな顔をした織姫は、ため息をつきながら玄関へと向かった。
インターフォンの先にいたのは、ぐったりとした彩葉を抱える今にも泣き出しそうなかぐや。
それを見た織姫は、慌てて二人を部屋に招き入れた。
一旦ソファーに寝かせた彩葉の額に手を当ててみると、ものすごく暑い。
熱でぐったりとした彩葉を抱えたかぐやが、部屋を出ていったのを確認した織姫はキッチンに立ち、氷嚢を作り始める。
その顔にいつもの優しい笑みはかけらもない。
しかし、それも一瞬だけで手早く氷嚢を作り上げた織姫は、いつもの笑みを浮かべてかぐやの待つ、自身の部屋へと入っていった。
織姫がそう言って、その場に座ればかぐやもその隣に座り込んだ。
よっほど不安なのか、織姫にぴったりと寄り添うように。
それを微笑ましそうに見守った織姫は、静かにその頭を撫でた。
織姫はいつもの何もかも包んでしまいそうな、優しい笑みを浮かべているだけだと言うのに、なぜか空気が重い。
その空気の重さに耐えられなくなったのか、かぐやは重々しい口を開いた。
それを聞いたかぐやは、諦めたようにクシャリと顔を歪ませて頬を掻いた。
かぐやはぽつりぽつりと話し始めた。
かぐやは月のお姫様、いわゆるプリンセスであるということ。
月での何も変わらない、なんの面白味のない生活のこと。
一緒に成長していった幼馴染兼、お世話係のある姉妹のこと。
そして、それらすべてが嫌になって抜け出してきたこと。
それを聞いた織姫は、静かに視線を下げた。
ようやく目を覚ました彩葉に駆け寄る織姫とかぐや。
最初は何が起きているのか全くわかっていない様子だった彩葉も、意識がはっきりしてきたのか、織姫を見て悲鳴を上げた。
そう言って、織姫は部屋を出ていった。
残されたのは、暗い表情をした彩葉とそんな彩葉を心配そうに見ているかぐや。
ノックもなしに部屋に入ってきた織姫は、その穏やかな表情を浮かべたまま彩葉の前に持ってきたお盆を置いた。
そこには、美味しそうな卵おじやが二つ乗っている。
悲しそうな顔で、さげようとする織姫のお盆を奪い取れば、織姫は満足そうに微笑んだ。
早速、卵おじやを頬張ったかぐやはあまりの美味しさに織姫にレシピなどを聞いている。
それに織姫は穏やかな笑顔で答えているため、どこからどう見ても姉妹のようにしか見えない。
それを見た彩葉は一瞬迷ったように、でも静かに小さな声を上げた。
楽しそうに笑いながら、かぐやの頭を撫でている織姫に、それを少し不満そうに見つめているかぐや。
その様子があまりにも面白くて。
気づいた時には、彩葉の口から笑みがこぼれ落ちていた。
彩葉の言葉に、織姫とかぐやは少しの間お互いの顔をみあわせ、笑った。
それぞれうなづいたことを確認した彩葉は、話し始めた。
お父さんが亡くなったこと。
そこからお母さんがおかしくなったこと。
兄が東京へ出て行ったから、お母さんと正しさを巡る戦いをしたこと。
結局は、学費とかも全部自分で稼ぐことを条件に、家を出てきたこと。
全てを聞いたかぐやと織姫は、それぞれ違った反応を示した。
たった少し涙が溢れただけだというのに、ワタワタしているかぐやと織姫が面白くて、彩葉は笑みを浮かべた。
それを見て、かぐやと織姫も穏やかな笑みを浮かべる。
その日は、かぐやと彩葉は織姫の家に泊まった。
まだまだ話し足りないということで、さまざまな話をした。
彩葉の大変だった生活の話、かぐやのなんの面白みもなかった月での話。
それら全てを、織姫はあの微笑みとともに聞いてくれた。
それが嬉しくて、今まで抱えていたものが軽くなっていくような、救われたような気がした。
最初は一泊のつもりだったのに、離れがたくなって連泊し続けてしまったのはまた別の話。
今回も読んでいただき、ありがとうございます!
そして、Akariさんと匿名の方
スポットライト、ありがとうございます!
今回は、彩葉の風邪回です
次はブラックオニキスvsかぐや、彩葉を描きたいなーって思ってます
次の話は🩷が10個
⭐️が10個新しくついたら、投稿します
次の話もよろしくお願いします!!
Akariさん、匿名の方、本当にありがとうございます!!!












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!