第10話

風邪
721
2026/04/07 11:00 更新
おっとりとした雰囲気が似合いそうな部屋に、場違いなほどけたましく鳴り響くチャイム音。
めんどくさそうな顔をした織姫は、ため息をつきながら玄関へと向かった。
織姫(現実)
はーい。
どちら様ですかー?
かぐや(現実)
『お、織姫!!!
助けて、彩葉が!!!!』
織姫(現実)
!?
インターフォンの先にいたのは、ぐったりとした彩葉を抱える今にも泣き出しそうなかぐや。
それを見た織姫は、慌てて二人を部屋に招き入れた。
織姫(現実)
ど、どうされたのですか?
かぐや(現実)
わ、わかんなくて!
彩葉、急に倒れちゃって・・・
酒寄彩葉
なるほど・・・
一旦ソファーに寝かせた彩葉の額に手を当ててみると、ものすごく暑い。
織姫(現実)
熱ですね
かぐや(現実)
え!?
い、彩葉死んじゃう!?!?
織姫(現実)
大丈夫ですよ。
人間は簡単には死にませんから
かぐや(現実)
ほ、ほんと!?!?!?
ほんとに彩葉、死なない!?
織姫(現実)
はい。
私もできる限りサポートいたします。
だから、頑張って看病しましょう?
かぐや(現実)
・・・うん!
織姫(現実)
まずは、私のベッドに移動していただきましょう。
かぐやさんには、氷嚢をお願いしてもいいですか?
かぐや(現実)
氷嚢?
織姫(現実)
・・・では、彩葉さんを私のお部屋に運んできていただいてもいいですか?
お部屋はこの部屋を出た突き当たりにありますから
かぐや(現実)
うん!!!
熱でぐったりとした彩葉を抱えたかぐやが、部屋を出ていったのを確認した織姫はキッチンに立ち、氷嚢を作り始める。
その顔にいつもの優しい笑みはかけらもない。
しかし、それも一瞬だけで手早く氷嚢を作り上げた織姫は、いつもの笑みを浮かべてかぐやの待つ、自身の部屋へと入っていった。
織姫(現実)
無事に寝かせられましたか?
かぐや(現実)
う、うん!
でも彩葉いっぱい汗かいちゃってて・・・
織姫(現実)
あぁ、大丈夫ですよ。
汗をかいてても風邪の時、人間は寒く感じるそうですから。
お布団をしっかりかけておいてくださいね。
あとは・・・彩葉さんバイトとかはなさってますか?
かぐや(現実)
してるよ!
織姫(現実)
では、そこにお休みする連絡もしておいてくださいな
かぐや(現実)
わかった!
織姫(現実)
彩葉さん。
ちょっと冷たいですが、失礼しますよ
酒寄彩葉
うっ・・・
かぐや(現実)
あ、彩葉!!!!
織姫(現実)
冷たいものが当たって、少し反応を示しただけです。
今は心配かもしれませんが、そっとしておきましょうね
かぐや(現実)
うん・・・
織姫がそう言って、その場に座ればかぐやもその隣に座り込んだ。
よっほど不安なのか、織姫にぴったりと寄り添うように。
それを微笑ましそうに見守った織姫は、静かにその頭を撫でた。
織姫(現実)
大丈夫ですよ。
何もこれが初めてではないでしょう?
かぐや(現実)
で、でもかぐやっ!!!
織姫(現実)
かぐやさん
かぐや(現実)
!?
織姫(現実)
彩葉さんは大丈夫ですから。
初めから教えてくださいな。
初めてご挨拶させていただいた時、かぐやさんは彩葉さんのいとこさんだと伺いました。
それは本当なのですか?
かぐや(現実)
・・・
織姫(現実)
かぐやさん。
私とて無理に聞き出すつもりはありませんよ。
ですが、そこをはっきりしていただかないと、これ以上お二人を信用することができなくなります
かぐや(現実)
っ・・・
織姫はいつもの何もかも包んでしまいそうな、優しい笑みを浮かべているだけだと言うのに、なぜか空気が重い。
その空気の重さに耐えられなくなったのか、かぐやは重々しい口を開いた。
かぐや(現実)
・・・織姫はすごいなぁ・・・。
なんでそう思ったの?
織姫(現実)
ふふっ、なぜでしょうね。
御二方が、あまりにも似ていらっしゃらなかったからかもしれません
かぐや(現実)
似てない?
織姫(現実)
顔立ちも、性格も、行動も。
いとこですから、多少は似ててもいいところがお二人は全く似てなかった
かぐや(現実)
そうなの?
かぐや、全然気づかなかった!
織姫(現実)
そういったところは、自分で気づくことは難しい部分ですね。
それに・・・
かぐや(現実)
それに?
織姫(現実)
・・・彩葉さんの対応がいとこに対するもの。
というよりかは友達。
あるいは親友に対するものだったような気がして
それを聞いたかぐやは、諦めたようにクシャリと顔を歪ませて頬を掻いた。
かぐや(現実)
やっぱり、織姫には敵わないなぁ・・・
織姫(現実)
ふふっ、私の推理は当たってましたか?
かぐや(現実)
うん。
彩葉とかぐやはいとこなんかじゃない。
かぐやは・・・月から来たの
かぐやはぽつりぽつりと話し始めた。
かぐやは月のお姫様、いわゆるプリンセスであるということ。
月での何も変わらない、なんの面白味のない生活のこと。
一緒に成長していった幼馴染兼、お世話係のある姉妹のこと。
そして、それらすべてが嫌になって抜け出してきたこと。
それを聞いた織姫は、静かに視線を下げた。
織姫(現実)
・・・なるほど。
事情はわかりました。
かぐやさんは、月のお姫様だったんですね
かぐや(現実)
うん。
黙っててごめんね?
織姫(現実)
お気になさらず。
それにしても・・・なんか納得です
かぐや(現実)
そう?
織姫(現実)
前々からかぐやさんは、私たち人間とは違うことを思いつく方だな、と思ってましたので
かぐや(現実)
えへへ、それって褻められてるのかなあ〜w
織姫(現実)
でも、お仕事を放り出してきたのはダメですよ。
月の皆さんが困ってるんじゃないですか?
かぐや(現実)
んグッ・・・
織姫(現実)
次に来られるときは、きちんと全ての仕事を引き継いでからにしてくださいね
かぐや(現実)
はーい!
・・・ん?
それってどういう・・・
酒寄彩葉
ん・・・こ、ここ・・・
かぐや(現実)
彩葉!
織姫(現実)
彩葉さん!
ようやく目を覚ました彩葉に駆け寄る織姫とかぐや。
最初は何が起きているのか全くわかっていない様子だった彩葉も、意識がはっきりしてきたのか、織姫を見て悲鳴を上げた。
酒寄彩葉
お、おおおお織姫さま!?!?!?!?
なんで、どうしてここに!?
織姫(現実)
ふふっ、ここは私の家ですよ
かぐや(現実)
彩葉、ここのマンションの外で倒れちゃったでしょ?
だから、かぐやが織姫の部屋まで運んできたの!
酒寄彩葉
か、かぐや・・・
織姫(現実)
とりあえず、疲労からくる風邪のようですので安静になさっててくださいな
酒寄彩葉
え、あ、ば、バイト・・・
かぐや(現実)
バイト休む連絡入れといたから!
彩葉、もう休んでぇ~
酒寄彩葉
で、でも・・・
織姫(現実)
休むことも仕事のうちですよ。
何か食べられるもの作ってきますね
そう言って、織姫は部屋を出ていった。
残されたのは、暗い表情をした彩葉とそんな彩葉を心配そうに見ているかぐや。
かぐや(現実)
い、彩葉!
病院!
病院行こ!
酒寄彩葉
・・・お金かかるからやだ
かぐや(現実)
そんなもん、全部かぐやにまかしとき
酒寄彩葉
・・・やっぱり無理だよ
かぐや(現実)
なんで?
酒寄彩葉
全部ギリギリで予定組んでるから。
何日も休んだらもう追いつけないよ・・・そしたら、奨学金も出ないかも・・・
かぐや(現実)
なんで、彩葉はそんなになんでも一人で頑張らなくちゃいけないの?
織姫、言ってたよ。
休むのも仕事のうちって
酒寄彩葉
そんなの・・・できるわけないじゃん
かぐや(現実)
酒寄彩葉
織姫と私は違うの!
織姫は頭も良くて、私なんかのことも心配してくれる。
でも、私には・・・
織姫(現実)
あらあら、ずいぶん大変なことになってますね
かぐや(現実)
織姫!!!
ノックもなしに部屋に入ってきた織姫は、その穏やかな表情を浮かべたまま彩葉の前に持ってきたお盆を置いた。
そこには、美味しそうな卵おじやが二つ乗っている。
織姫(現実)
あまり手の込んだものはできませんが。
どうぞ?
酒寄彩葉
え、これ・・・
織姫(現実)
どうぞお気になさらず。
あ、それとももっと凝ったご飯の方がよろしかったですか!?
酒寄彩葉
ぜ、全然!!!
悲しそうな顔で、さげようとする織姫のお盆を奪い取れば、織姫は満足そうに微笑んだ。
織姫(現実)
あ、そうそう。
体調管理は全ての基本です。
そこを怠るのはどんな優務な方だったとしても、阿保より下だそうなので。
あしかあず
酒寄彩葉
あ・・・
かぐや(現実)
彩葉?
酒寄彩葉
お母さんも、そう言ってた・・・
織姫(現実)
お母様?
私は知り合いの方から教えていただいたので、同じようなことを教えていらっしゃる方がいるのでしょうね
かぐや(現実)
え、織姫はお母さんから教えてもらったんじゃないの!?
織姫(現実)
私の両親は小さい頃に亡くなったので。
それより、おじやのお味はどうですか?
酒寄彩葉
あ、い、いただきます。
・・・美味しい
かぐや(現実)

彩葉!
織姫(現実)
・・・それはよかったです。
かぐやさんも食べられますか?
かぐや(現実)
うん!!!
早速、卵おじやを頬張ったかぐやはあまりの美味しさに織姫にレシピなどを聞いている。
それに織姫は穏やかな笑顔で答えているため、どこからどう見ても姉妹のようにしか見えない。
それを見た彩葉は一瞬迷ったように、でも静かに小さな声を上げた。
酒寄彩葉
あの、織姫・・・は、どうして私なんかにここまでしてくれるの?
織姫(現実)

・・・人が人を助けるのに理由がいるのですか?
酒寄彩葉
え?
かぐや(現実)
さっすが織姫!
やっぱりそうだよね!
彩葉が彩葉だから助けてくれたんでしょ?
織姫(現実)
当たり前です。
彩葉さんは、私の後継であるかぐやさんのプロデューサーさんなのですから。
元気でいていただかないと
かぐや(現実)
そうそう!!!
彩葉はかぐやの大好きな友達なんだから、彩葉のことはかぐやが助ける!
織姫(現実)
あら、最初は何をしたらいいのかわからなくて、助けを求めて来られた方の発言とは思えませんね
かぐや(現実)
うっ・・・それは・・・でも、いいじゃん!!!
織姫(現実)
ふふっ、次はちゃんと人間の看病ができるようにしましょうね
かぐや(現実)
う、うぅ・・・
楽しそうに笑いながら、かぐやの頭を撫でている織姫に、それを少し不満そうに見つめているかぐや。
その様子があまりにも面白くて。
気づいた時には、彩葉の口から笑みがこぼれ落ちていた。
酒寄彩葉
あはは・・・
かぐや(現実)

彩葉笑った!!!
織姫(現実)
笑えるくらいには回復されてるようですね。
よかった
酒寄彩葉
うん。
ありがとう二人とも
彩葉の言葉に、織姫とかぐやは少しの間お互いの顔をみあわせ、笑った。
かぐや(現実)
気にしないで、彩葉!
織姫(現実)
お気になさらず
酒寄彩葉
うん・・・あの、ね。
二人には知っていて欲しいんだ。
家のこと。
お母さんのこと。
・・・私のこと
それぞれうなづいたことを確認した彩葉は、話し始めた。
お父さんが亡くなったこと。
そこからお母さんがおかしくなったこと。
兄が東京へ出て行ったから、お母さんと正しさを巡る戦いをしたこと。
結局は、学費とかも全部自分で稼ぐことを条件に、家を出てきたこと。
全てを聞いたかぐやと織姫は、それぞれ違った反応を示した。
かぐや(現実)
えらい簡単に言ってるけど、みんなそんなのしてなくない?
織姫は?
織姫(現実)
え、私ですか?
んー、私は両親がいないことは小さい頃からだったので、なんとも・・・
かぐや(現実)
それもひどい!!!
酒寄彩葉
お母さんがそれくらいしてたし。
私も譲らなかったし。
あのボロアパートで初めて目を覚ました時のこと、今でも覚えてる。
なんか、ラッキー、みたいな?
かぐや(現実)
いやいやいや、ラッキーじゃないから!!!!?
織姫(現実)
確かに、その状態でラッキーとはなりませんね
酒寄彩葉
でも、力が沸いてきて楽になったのは事実だよ?
織姫(現実)
私は彩葉さんがそう思えるのなら、いいのですが・・・何かありましたら、ぜひ頼ってくださいな
かぐや(現実)
そうそう!!
かぐや、彩葉に頼りっぱなしだったから、今度は彩葉がかぐやに頼って!!!
酒寄彩葉
え、でも・・・
織姫(現実)
とりあえず、風邪が治るまでは私たちに頼ってくださいな
かぐや(現実)
彩葉のことは私たちが精一杯支えるから!
酒寄彩葉
・・・っあ、ありがとう
かぐや(現実)
わー、彩葉泣かないでよ〜!!!
織姫(現実)
泣いた方がしんどくなっちゃいますよ?
たった少し涙が溢れただけだというのに、ワタワタしているかぐやと織姫が面白くて、彩葉は笑みを浮かべた。
それを見て、かぐやと織姫も穏やかな笑みを浮かべる。
酒寄彩葉
二人とも、よろしくね?
かぐや(現実)
かぐやに任せとき!
織姫(現実)
ふふっ、お任せくださいな
その日は、かぐやと彩葉は織姫の家に泊まった。
まだまだ話し足りないということで、さまざまな話をした。
彩葉の大変だった生活の話、かぐやのなんの面白みもなかった月での話。
それら全てを、織姫はあの微笑みとともに聞いてくれた。
かぐや(現実)
織姫!
酒寄彩葉
織姫・・・
織姫(現実)

どうかなさいましたか?
それが嬉しくて、今まで抱えていたものが軽くなっていくような、救われたような気がした。
最初は一泊のつもりだったのに、離れがたくなって連泊し続けてしまったのはまた別の話。
今回も読んでいただき、ありがとうございます!


そして、Akariさんと匿名の方
スポットライト、ありがとうございます!


今回は、彩葉の風邪回です

次はブラックオニキスvsかぐや、彩葉を描きたいなーって思ってます

次の話は🩷が10個
⭐️が10個新しくついたら、投稿します


次の話もよろしくお願いします!!


Akariさん、匿名の方、本当にありがとうございます!!!

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