「悠馬、スピードで賭けようぜ。」
昼休み。仲間が俺の机の周りに寄ってきた。
「なんか企んでるだろ。」
「賭けってそもそもそんなもんだろ、なぁ。」
「スピードで勝った方が全員にアイス奢りな!」
アキがニヤリと笑う。
んだよ、そんな事か。
「部活帰りにって訳か。単純な。」
「お前だってこの前炭酸奢れって1体1仕掛けてきたじゃねぇか。」
俺を含むこの4人は皆、クラスメートでありバスケ部のチームメイトだ。
…こいつらは、俺を、迎え入れてくれた大事な人達でもある。
「よぅし、じゃ、1本勝負な。」
「っしゃ!悠馬が本気出すとマジヤバイよな。」
「俺、戦略的なんで。」
高校生なんて、大体こんなもんだ。
勉強はテスト前に焦るぐらいで、部活と遊ぶために通学してるような、どこにでもいる奴。俺もその一人。
大我が机に持っていたトランプをバサッと広げた。
トランプが目に入ると、思わずビクッとした。
未だ、慣れないな…。
「ん?どうした。」
「えっ?あ、いや、何でも?シャッフルは修に頼むわ。」
「おう。このシャッフルで2人の運命が決まると言っても過言では無いな?」
「お前厨二病かよ。」
笑いながらも、心の中の恐怖の燃え残りが、あの記憶を連れ戻して来る。
トランプを見るといつも思い出す。
あれは、夢だったのか、本当に俺が体験したのか、1年経った今でも分からない。
でも確かに、俺の記憶には、はっきりと鮮明に焼き付いている。
出来ることならもう消し去りたい、あの屋敷での事。
あの轟音、炎、そして──・・・。
あいつを。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。