第4話

3.Wonderland
23
2021/04/03 06:40
 聖に屋敷内を案内され、目に入る物全てに、ひたすら俺は圧倒されるだけだった。
三階建ての屋敷は、大広間に大きな階段があり、そこからそれぞれの部屋の方へ四方八方に廊下が続く。照明は嫌というほど設置されているのに、何処と無く薄暗い様は、廊下の遠く先から悲鳴でも聞こえてきそうだ。廊下は全てレッドカーペット。所々の壁には、額縁に入れられた高そうな絵画。ドアなんていくつ見たんだろう。キッチンなんて俺の家のリビングくらいの広さ。舌を巻く光景しか無い。
俺の場違い感、半端じゃないだろ…。
聖は、そんなビクビクしてる俺には構わず、どんどん先へ進んで行く。
土足とは言え、とはいえ、聖は赤く艶のある薄いパンプス。俺はいつもの黒い運動靴…。
英国の貴族の血筋でも引いているんだろうか、この家は。どうしたらこんな大きな屋敷に住めるんだ。
歩き続けて、不意に足元を見て気付いた。
…あれ?聖から、足音が一切聞こえない?
足音は愚か、聖からは音が驚くほど出ない。歩いた時のワンピースが擦れる音さえも。
まぁ、、気のせい、か。

「悠馬は、今いくつ?」
お茶とクッキーを乗せた皿を俺の前に出しながら、聖が訊く。
「あ、えと、15。」
「本当にっ?私も今年で15歳よ!同じなのね。」
これで、同い年・・・?
それにしては聖は、口調も容姿も、俺とはめちゃくちゃにかけ離れてるって感じだけど。
いや、彼女が大人び過ぎてるのか。
「これ、外国にいる親戚からの贈り物なの。本場のダージリンティーとかって、伯母様がおっしゃってたわ。」
「凄いね、、やっぱ、金持ちなんだね。」
この食器一つ取っても、何万とかしてそうだな。カップを持つのすら手が震える。
 でも…。
こんな所でのんびりしてるほど、俺に余裕は無いんだよな……。
ありがたいけど、早く出よう。
「あ、あのさ…。俺、これから用があるんだよね。だから、、。」
「あっ、ご用事があったのね。ごめんなさい!」
よし。
「でも、、この森には、何も無いのに。一体何しにいらっしゃったの?」
うっ。そう来るか。
彼女の感じからしても、やはり簡単にはいかないな。
「あ、いや、その……。」
誤魔化せ。早く、何とでも。
聖がジーッと俺の目を見つめてくる。
一瞬も逸らさず、瞬きもせず。
俺は思わず唾を飲んだ。
「……もしかして、家出?」
「…なっ、なんで。そんなに、分かるの…。」
怖いくらい人の考えてる事を暴いてくる。
透視でも出来るのか……?
彼女の前だと、何もかもが見透かされてしまう。
「あら、隠す事無いじゃないの。家出なんて。」
「…えっ?」
案外ケロッとしてる。普通なら、家出したって聞いたら、なんで?とか質問してくるのに。
「何か辛い事があったんでしょう?たまには逃げたい時だってあるわ。」
なんだろう。
何かが込み上げてくる感覚。
嬉しいんだ。
自分の気持ちを分かってくれる人に出会って。
俺はその言葉を一年前から待っていたのか……。
そう思うと、フッと目頭が熱くなった。
「どうかされた?大丈夫?」
ヤバい。早く止まれ。
女子の前で泣くとか雑魚かよ。
涙なんか、久しぶりに出たよ。
「無理に泣きやもうと自分に暗示をかけると良くないわ。泣きたいって、あなた自身が言っているのだから。」
俺を気遣って、聖が慰めの声を掛ける。
この甘い声に、甘えてしまおうか…。
俺、本当はマジで弱いんだなぁ。
中3ったって、所詮はまだまだ子供ってわけか。
情けないよ、な……。

「ねぇ、悠馬…。」

再び彼女が問う。

「しばらく、ここに居ればいいんじゃない?」

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