自然の中だからもともと綺麗だと思ったけど、更に澄んでるっていうか……水の透明感も半端ない。すごく静謐で神聖な空間って感じ。
空を溶かし込んだような澄んだ青をたたえる湖を、畔からのぞき込むと、よく実年齢より幼くみられるオレの顔が水鏡に映った。
うわー、本当に銀髪碧眼になってる……すげーイメチェン。
でも意外と似合ってるかも?
水をすくうと、ひやりと程よい冷たさ。……やっぱり、夢じゃなさそうだな……。
朔が仔ペガコーンの首を撫でると、角を持つ天馬は「ヒヒーン」とひときわ大きく嘶いた。
同時に、湖の中央がポワンと輝き始める。なんだなんだ?
頷くと、朔はブーツのまま、ジャボッと湖の中に足を踏み出す。
次の瞬間、湖の水がザアアッと朔を中心に左右に真っ二つに割れた。
うおおお、モーゼの出エジプト!? これは熱い。
湖の底の中央には、一振りの剣が刺さっていた。
朔は無言で顔を伏せ、グッと両の拳を握りながらしばし感極まったように震えていたが。
やがてふうっと息を吐き出すと、なんでもないという様子で「行きましょう」と神剣へと続く湖底への道を歩き出す。
こいつ、表情はいつもほとんど動かないけど、感情はわかりやすいんだよな。
今も頬は赤いし目はキラキラしてるし、冷静ぶっても興奮してるのがバレバレだ。
水深は一番深いところで俺たちの身長の二倍くらい。
割れた湖の壁を横から見ると、キラキラ揺れる水面の下で水草が漂い、魚がスイスイ泳いでいた。
水の壁に触ってみたくなったけど、それがきっかけで魔法が解けたりすると困るので、ぐっとこらえる。
やがて辿り着いた、湖底の中央。
朔が剣を引き抜いた瞬間、ひと際まばゆい光が放たれ、オレは思わず顔を伏せる。
少しして視線を戻すと、もう剣の発光は収まって、朔が色んなポーズを構えながら悦に入っていた。
えーと、設定を整理すると、地球で生きてた『最上朔』の前世が、今のアスラグの伯爵令嬢『朔=エクリプス=ミッドナイト』で、そのまた前世が千年前に魔王を倒した『月の女神』ってことか。
いくつ前世があるんだよ! つくづく転生大好きだな、こいつ……。
神剣の剣身は錆びているし、全体的にくすんで古ぼけた印象だ。
なるほど、そういう仕組みか。
しかしながら、ここまで朔が話している通りの出来事が続くということは、この世界は朔が創作した厨二小説の世界であるというのは、認めざるを得ないようだ。
……いや、待てよ。
今までは朔のこと、ただの厨二病だと思ってたけど、この世界は創作じゃなくて本当に朔の前世の世界で、実は朔は前世の記憶持ちの転生勇者だった──なんて可能性もあるのか?
…………いやいや、まさかな。だってこいつが昔、ノートに色んな単語を書き連ねて必殺技名をうんうん唸りながら考えてるの、見たことあるし。
朔はただの厨二病患者……のはず。たぶん。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。