第34話

イヤモニが白色の理由㉞
2,655
2020/10/05 12:33
貴方side
〜現在編〜
あなた

ん〜…

私はあれから寝ていたらしく
うどんのお皿もお盆も何もかも
私の周りにはなかった。
…でも私の右手に違和感を持ち
何かと右側を静かに見たら
私の手を繋いだまま隣で寝ている大倉くんが
目に入った。

大倉くんは布団の代わりに自分の上着をかけていた。
まだ冷え込む夜だからと私が使っている布団の
半分をかけてあげた。
大倉忠義
大倉忠義
ん〜……あなた?
あなた

ごめん。起こした?

大倉忠義
大倉忠義
ううん。平気やで。
熱は?咳とか発作とかある?
あなた

ううん。大丈夫。

大倉忠義
大倉忠義
そか。なら良かった。
大倉くんはのそのそと起き上がって
私は大倉くんをずっと見てると
大倉くんの顔が目の前に来て何をするのか
分からず咄嗟に目を閉じた。
するとおでこにコツンと当たった感覚があり
ゆっくり目を開けると私のおでこと大倉くんの
おでこが当たり大倉くんはそのまま私の首に
腕を回した。
熱があるか確認してくれてるのかと思うと
ちょっと恥ずかしかった。
大倉忠義
大倉忠義
…ん。熱は大丈夫そうやな。
吸入しとくか?
それとも点滴にしとく?
あなた

……吸入だけ一応しとく。

大倉忠義
大倉忠義
分かった。
今準備するから
布団の中で体温めてて。
半分大倉くんにかけていた布団を
優しく肩にかけてくれた。

ふと窓を見るとあっくんと話した時より空は
暗くなっていてもしかしたら日付が変わっている
かもしれないと思い部屋の時計を見てみると
案の定日付が変わっていてそれに
もう少しで4:30を回ろうとしていた。
あなた

…大倉くん。

大倉忠義
大倉忠義
ん〜?どうした?寒い?
あなた

ううん、大丈夫。
…明日仕事大丈夫?

大倉忠義
大倉忠義
…午後からやから大丈夫やで。
心配せんでも平気やから。
………はい、出来た。
慣れた手つきで吸入の準備をしてくれた大倉くん。
大倉くんの手から吸入器を貰って口元に持って行き
機械の青いボタンを押した。
特に大きな音が立つことも無く二人の間には
静かな静寂に包まれていた。
大倉忠義
大倉忠義
……独り言やと思って聞いてな?
ずっと続いていた静寂を破ったのは大倉くんだった。
大倉くんはすっと立って窓の方に歩いて
窓側にある私の勉強机に寄りかかって腕を組んだ。
大倉忠義
大倉忠義
…俺には自慢出来る後輩が居ったんよ。
何もかも完璧やった。
歌もダンスもアクロバットも。
俺が来れない間にさらに上達してて
俺が来た時には新技も元々出来てた
物の全部が上手くなってて…。
ホンマに毎回毎回驚かされた。
こいつがいたらもっと関西盛り上がる。
関西の魅力や素晴らしさを多くの人に
知って貰えるチャンスが増える。
…直感にそう思った。
でもその分そいつがテレビや
雑誌とかに出るにつれて
アンチが増えるのは当たり前やった。
先輩としてちゃんと守ってやるって
誓ったんやけど…
ちょっとその誓った時期が遅かった。
元気にしてるかなって
また新しいこと挑戦してんのかなって
久しぶりに時間空いたから
大阪行ったんよ。
……でもそいつは居らんかった。
周りに聞けば家の用事やって。
でも全然納得行かんくて
メンバーに連絡して本人に確認して
貰ったんよ。
そしたら横が今会ってるって来て。
そしたら俺を含めたメンバー全員
横のところに集まった。
横の前に座っていたそいつは
もう目が真っ赤っかやった。
それで確信したんよ。
こいつは家の用事なんかやないって。
まだ納得してないんやなって。
でもそいつは吹っ切れて
もうこの仕事はしないって言って
表舞台から突如姿を消したんや。
…その時に俺気づいたんや。
ある程度話し終わった大倉くんは向きを変えた。
大倉くんはまだ空が暗い窓の方に向いて
小さく息を吐いたあと指で窓をなぞった。
大倉忠義
大倉忠義
……もしかしたら俺
そいつのこと好きやったんかも知らん。
時間があればそいつの今を知りたくて
大阪まで来て上達してれば
ホンマに嬉しくて。
俺が褒めれば最高の笑顔で笑って
俺がアドバイスしたら
真剣な表情に変わって鏡に向き合う。
…ギャップに惚れたんやと思う。
長い髪を括り直す仕草も
打ち合わせを真剣に聞く時に出る
可愛らしい癖も
全部全部トリコやった…。
やから……俺今悔しい。
そいつは俺の事思ってなくて
他のやつを思ってて。
それにそいつが思っている人も
今はそいつを探しに真剣になって…。
分かってたんやけど
俺には入るスペースがなかった。
だから気がつけば応援の方に回ってた。
幸せならそれでええ。
そいつが笑ってくれたらそれだけええ。
そう思ってた。
勿論今も思ってるよ。
思ってるけどさ……
やっぱり苦しいんや。
………あなた。
大倉くんはそのまま静かに床に座った。
独り言として聞くには余りにも内容が濃かった。
それは大倉くんが話した中の登場人物の「そいつ」が
私にピッタリだったから。

どう返事をすればいいのか分からない。
もしかしたらずっと苦しめてたのかもしれない。
いや、絶対に私は大倉くんを苦しめていた。

色々と考えていると吸入器が終わりの音を立てた。

吸入器を片付けながら大倉くんになんて言えば
いいのか分からなくてそれでも自分なりの言葉を
頭の中で並べた。

片付け終わって並べた言葉を心の中で順に唱えて
一呼吸しパッと左を向いた。
あなた

…大倉くんっ

大倉くんと名前を呼んで横を向くと
直ぐに大倉くんの顔があって
私は最後まで大倉くんと名前は呼べなかった。

その理由は…
私の唇に触れ合うもう1つの唇があったから。

私は大倉くんとキスをした。
大倉忠義
大倉忠義
……今日で最後にする。
あなたへの想い。
だから今日一日だけ
俺の彼女になって?
私の返事を聞く前に大倉くんはまた
私の唇に優しくキスをした。









大倉忠義
大倉忠義
……ありがとう。
俺の自慢出来る後輩の1人に
なってくれて。
あなたが関ジュになってくれて
ホンマに良かった。
………結婚式絶対呼んでな?
私を優しく抱きしめた大倉くんは耳元で
そう優しく言った。

一日だけ大倉くんの彼女。
明日になれば、朝が来たら
私たちは……前に戻る。
後輩と先輩。それだけ。

私も大倉くんの背中に腕を回して
大倉くんの胸に顔を埋めた。
あなた

…大倉くんにとって
自慢出来る後輩になれてたのなら
それは本当に嬉しい。
…私もありがとう。
差別とかいじめとかそんなんせずに
1人の後輩として正面から向き合ってくれて
本当に嬉しかった。ありがとう。
……結婚式必ず呼ぶね。
スピーチお願いしようかな笑

大倉忠義
大倉忠義
ふは。笑笑
スピーチはあいつらにやってもらい?
俺は多分あなたの綺麗な姿に
涙止まらんと思うから。
大倉くんが言う「あいつら」はあっくんと淳太くんの事
確かに2人も私にとって最高の仲間。
心から祝ってくれると思うけど
それでもやっぱり大倉くんにも関わって欲しい。
あなた

…スピーチじゃなかったら
関わってくれる?

大倉忠義
大倉忠義
…ものによるで?笑
あなた

…うん。笑

そんな話をしていると朝日が私たちを照らした。
大倉くんの笑顔は今までで1番輝いていた。
眩しいくらいに。

もしかしたらずっと大倉くんは
心の底から笑えてなかったのかも知らない。
それは私がずっと崇裕を想っていたから。
大倉忠義
大倉忠義
…ありがとう。
……おやすみ。
あなた

…ありがとう。
…おやすみ。

抱き合ったまま2人では狭いベッドに入って
優しく目をつぶる。
大倉忠義
大倉忠義
……幸せになりや?
愛してんで。あなた。
大倉くんが私の頭を優しく撫でながら
そんなことを言ってたなんて
夢を見ていた私には知らない話……。

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