貴方side
〜現在編〜
私はあれから寝ていたらしく
うどんのお皿もお盆も何もかも
私の周りにはなかった。
…でも私の右手に違和感を持ち
何かと右側を静かに見たら
私の手を繋いだまま隣で寝ている大倉くんが
目に入った。
大倉くんは布団の代わりに自分の上着をかけていた。
まだ冷え込む夜だからと私が使っている布団の
半分をかけてあげた。
大倉くんはのそのそと起き上がって
私は大倉くんをずっと見てると
大倉くんの顔が目の前に来て何をするのか
分からず咄嗟に目を閉じた。
するとおでこにコツンと当たった感覚があり
ゆっくり目を開けると私のおでこと大倉くんの
おでこが当たり大倉くんはそのまま私の首に
腕を回した。
熱があるか確認してくれてるのかと思うと
ちょっと恥ずかしかった。
半分大倉くんにかけていた布団を
優しく肩にかけてくれた。
ふと窓を見るとあっくんと話した時より空は
暗くなっていてもしかしたら日付が変わっている
かもしれないと思い部屋の時計を見てみると
案の定日付が変わっていてそれに
もう少しで4:30を回ろうとしていた。
慣れた手つきで吸入の準備をしてくれた大倉くん。
大倉くんの手から吸入器を貰って口元に持って行き
機械の青いボタンを押した。
特に大きな音が立つことも無く二人の間には
静かな静寂に包まれていた。
ずっと続いていた静寂を破ったのは大倉くんだった。
大倉くんはすっと立って窓の方に歩いて
窓側にある私の勉強机に寄りかかって腕を組んだ。
ある程度話し終わった大倉くんは向きを変えた。
大倉くんはまだ空が暗い窓の方に向いて
小さく息を吐いたあと指で窓をなぞった。
大倉くんはそのまま静かに床に座った。
独り言として聞くには余りにも内容が濃かった。
それは大倉くんが話した中の登場人物の「そいつ」が
私にピッタリだったから。
どう返事をすればいいのか分からない。
もしかしたらずっと苦しめてたのかもしれない。
いや、絶対に私は大倉くんを苦しめていた。
色々と考えていると吸入器が終わりの音を立てた。
吸入器を片付けながら大倉くんになんて言えば
いいのか分からなくてそれでも自分なりの言葉を
頭の中で並べた。
片付け終わって並べた言葉を心の中で順に唱えて
一呼吸しパッと左を向いた。
大倉くんと名前を呼んで横を向くと
直ぐに大倉くんの顔があって
私は最後まで大倉くんと名前は呼べなかった。
その理由は…
私の唇に触れ合うもう1つの唇があったから。
私は大倉くんとキスをした。
私の返事を聞く前に大倉くんはまた
私の唇に優しくキスをした。
私を優しく抱きしめた大倉くんは耳元で
そう優しく言った。
一日だけ大倉くんの彼女。
明日になれば、朝が来たら
私たちは……前に戻る。
後輩と先輩。それだけ。
私も大倉くんの背中に腕を回して
大倉くんの胸に顔を埋めた。
大倉くんが言う「あいつら」はあっくんと淳太くんの事
確かに2人も私にとって最高の仲間。
心から祝ってくれると思うけど
それでもやっぱり大倉くんにも関わって欲しい。
そんな話をしていると朝日が私たちを照らした。
大倉くんの笑顔は今までで1番輝いていた。
眩しいくらいに。
もしかしたらずっと大倉くんは
心の底から笑えてなかったのかも知らない。
それは私がずっと崇裕を想っていたから。
抱き合ったまま2人では狭いベッドに入って
優しく目をつぶる。
大倉くんが私の頭を優しく撫でながら
そんなことを言ってたなんて
夢を見ていた私には知らない話……。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。