中間side
〜現在編〜
助手席に座って膝の上に置いてある
あなたからの手土産を覗いた。
唐揚げ、グラタン、ハンバーグ。
それとは別に一番下には黄色の巾着に包まれている
ものがあった。
俺はちょっとガサゴソしながら巾着を開けてみると
俺が昔よく食べていた台湾風のまぜそばが
入っていた。
タッパーの上にはあなたの可愛らしい字で
付箋に「昔好きだったでしょ?頑張って作った!」
と絵文字付きで書かれていた。
あなたはホンマにそういうやつ。
俺がやっとこの気持ちにケジメをつけようと
今日の打ち上げ前の濵ちゃんの言動で…
いやそれよりも前には決めてたはずなんやけど
こんなことされたら…揺らいでしまう。
あなたは何とも思わんの?
昔俺な向けたあの笑顔はなんやったん?
俺の呼び名をちょっと皆とは変えて
たまに「淳くん」と呼んでいたのは
どんな気持ちで呼んでたん?
勝手に盛り上がって 勝手に沈んで
アホやな。俺って。
頭はいいのにこんな事はバカやねん。アホやねん。
そんな時ポケットに入れていた携帯が震え
携帯を出してみると濵ちゃんからメールが来ていた。
明日やっと2人は8年ぶりの再会を果たす。
綺麗になったと思ったら
8年前とは何も変わってなかった
可愛らしい笑顔とか
久しぶりあなたの手料理も何も変わってない
この料理も……
明日から全部濵ちゃんのものになる。
俺はもう近くでは見れたり味わえることなんて
もう出来ひん。
羨ましい半面嬉しいという複雑な俺の心情。
勝敗なんてもしかしたらJr時代の頃から
分かりきってたんやと思う。
「両思いのプリンセスとプリンス」
そうやん。
俺らの間ではそう言ってたやん。
照史も俺も…
幸せ2人に勝てることはもう無理やったんや。
初めから分かりきってたやん。
やからかな…。
あの時しげが俺に言ってくれたのは。
こいつが恋愛系だの学園系だのの作品に多く
声がかかるのがよく分かった。
…きっとこの言葉や役が全部マッチするんやろう。
でも俺にはきっと出来ないことを
濵ちゃんならやってくれると信じてる。
色々な景色を見させてあげて欲しい。
色々な形の愛をあげて欲しい。
色々な…色々な…
俺には出来ないものを全部やって欲しい。
そうすればきっと俺はケジメつくから。
今日初めてあなたに嘘ついた。
用事ってことは合ってるかな。
でもその用事は明日になったら分かるから。
いつもより綺麗になって待っててな?
多分これが最後になるんだと思う
あなたからのお土産をまた丁寧に膝に乗せ直し
紺色の空に浮かぶ綺麗な満月を見て
8年前からそれ以前、そして出会ってからまでの
あなたのあの笑顔とか全てを思い出して
重ねていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!