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第12話

面と向かって話すと
いよいよ8月。

お盆に連なった世間のお休みが来た。






今年、お盆休みに合わせる形で

東京の某文化ホールではクラシックのコンサートがある。

私も今回、ピアノとバイオリンで出演以来があって東京まで来たのだ。









私は幼少期をフランス、ウィーンで過ごした。

父親がフランス人。

よりによって音楽家だった。






物心付く頃から自宅のサロンで楽器に触れ

音楽と共に育ってきた。









1番手近だったのはピアノ。


コンクールにも出て賞も取っている。




一方でバイオリン。

父親は今も有名なバイオリン奏者。

小さい頃から熱心に教えられたらしい。




バイオリンは聞いて覚えたに等しかったが

それでも世間には驚かれた。







私にはそんな音楽との縁があった。







たまにテレビにも取り上げられ

学校でもピアニスト、音楽家としての活動が知れていた。








毎日、バレー部の部活が終わって帰宅後に練習。



夜遅くまで…

電子ピアノをヘッドホンに繋いだ。






コンクールが近いと昼休みも音楽室に籠った。










それでも、

バレー部のマネージャーだけは、

私の中で優先してきたつもり。





コンクール前の調整期は、あまり合宿にも行けない。

それでも今できることを最大限に頑張ってきた。












そして、夜行バスで出発した宮城から

あっという間に東京に着く。








時刻はまだ明け方。



コンサートは、明日が本番だけど、

午後には、運営管理を兼任する従兄弟の真一くんが迎えに来る。




それまでは、と。

ネカフェに籠って課題曲を聞きながら譜面を叩いて時間を過ごした。





テツローには、今日、東京に行くことは伝えていない。








いつも、部活は9時からスタートで、

8時には早めのメンバーが揃うと言っていた。






駅前のコーヒーショップで朝食を食べて

ゆっくりと音駒の校舎を目指して歩き出した。







駅前の角を曲がってすぐ。

ジュエリーショップの前で足が止まった。




形やデザインは違うけど

自分のと似ている紅い石が店頭に光っていた。





一瞬、テツローが選んでくれたのはこの店なのかと頭を過ったが…なかなかに高い。

高校生では、結構背伸びをしなければならない値段だった。



でも、この店でなくとも…

『こんな感じ』の所でネックレスを選んでくれていたら…と、少しウキウキした。









いつもいつも

心の中で、電話のこっちで『テツロー』と呼ぶ。





けど、面と向かって呼べたのは、

合宿中の非常階段だけなのだ。




逢ってしまったら…

緊張でそんな簡単に呼べないかもしれない。






ーーうぅ…


お腹、痛くなってきた。







今日は普通のワンピース。

白地にグラデーションのように花模様が入っている夏らしいもの。

後ろにはリボンも付いていてお気に入り。


髪の毛も簡単だけど編み込んでハーフアップにしてきた。







ーー変じゃないかな。

ーーテツロー、私を見て喜んでくれるかな。







高校が近付くつれてドキドキが大きくなる。







事前に猫又先生には連絡してある。

けど、時間帯も伝えていない。





手土産も宮城名物『萩の月』。

みんな喜んでくれるといいけど…










やがて、音駒高校との表札を見つけ

校門に立つ。











ーー来たんだ。音駒。








なんか、感動。

本当に実在したと思える感動。






男子バレー部がどこの体育館かなんて全然わかんない。


道行く陸上部らしい人や

テニス部、柔道部など、色々な人に聞き込みをする。




そして、バレー部なら…と、案内して貰い

体育館入口で親切な人と別れた。









意外にも来賓入口など通らず、

道行く人に訪ねるだけでここまでこれたのだ。









ーーーーふぅ。


遠くに聞こえるバレーシューズの音。

微かに感じるエアーサロンパスの匂い。





『おーし!休憩!!
 ドリンク無いやつ作りなさいよ!』



たしかなる…

テツローの声。






ーーード ド ド

重なる足音がこっちに向かってくる。











ーーーガラガラ


『いやー、8月の体育館暑すぎでしょ』

『ほんっとカラカラっすよ』

『午後もって考えると…』




とっさに自販機の裏に隠れてしまった!!

バレー部のみんなが通りすぎていく。




ーーータン タン

遠いボールの音に安心した。






研磨「あれ?あなた、なにしてんの?」


『…え!あ、っと…!研磨!!!』






研磨、あんたはアサシンか何かか!!

足音無く来るとか心臓止まるんだけど…!!






鉄朗「けんまー!はやくしなさ………え?」




あ、遠いけど目があっちゃって…

ボトル落とした鉄朗がこっち来る。




研磨「クロ。あと任せるから。
   オレ、ボトル入れてくるね。」




ーーすたすたすた


え、いっちゃうの?!

研磨、そのまま行くの!!?




鉄朗「ん、お嬢さん、迷子ですか?
   学校の入口で名前書きました?」


『あ、いえ…あの…』


鉄朗「俺、彼女いるんで親密にはできないっスけど…道案内だけしましょうか?」




ーーあれ?

もしかして、テツロー。

自分の彼女、解ってないのか?



『あ、あの。大丈夫ですっ!
 バレー部に用事があって…か、彼氏に電話するんで…すみませんっ』



てか、目の前に居るんだけど…

自分でもテンパりすぎて対面でマトモに過ごせない。




とりあえず、震えながらスマホを操作して

テツローに電話する。



ーープルルル プルル…



鉄朗「あ、俺もバレー部なんで何かあれば言ってください。じゃ!」



ーープルルル プルル…

ーープルルル プルル…




あれ? 出ないんだけど…
 





ーープルルル プルル…

ーー『もしもし?あなた?』

あ、出た。




『あ、もしもし?テ、ツロー…』


ーーあ、うん。ごめん。部活中でさ。


『うん、そうだと思ったんだけどね。』


ーーでも、さっき。
ーーあなたに似てる子見かけちゃって
ーーちょうど、声聞きたくなってたとこだったのよ。




そう、話ながら体育館に戻る鉄朗あなたは、不思議そうに私を見つめてくる。


目の前に居る鉄朗あなたに向かって



『8月になったから…
 逢いたくなって来ちゃったんだよ、テツロー。』




そう、話した私を本当に。

本当に目を丸くして見つめ返してくれて

時が止まったみたいになる。




電話を持ったまま

少し先に居るお互いの心臓の音が聞こえそうになる。





息が止まりそう


ーーそう思った次の瞬間。


目の前が真っ暗になって、大好きな人の匂いに包まれていた。