寒くて痛かった。
降りしきる雪は私の肌に当たり溶ける。
ただそれだけの事に猛烈な痛みを伴った。
服を何枚も重ねて着ても、指に息を吹きかけても、私の体は急速に温度を失っていった。
手先が赤く色付き、悴む。
何処に行くわけでも無く、勢いで出てきてしまった私たち。
親戚などは居なく行く宛は何も無かった。
寝てはいけない___
これは本能的な感覚で分かっていた。
でも、夜通し歩き回っていた私たちの体力は限界を迎えていた。
と、その時。
前の方に小さな小屋を見つけた。
小屋と言ってもボロボロで今にも倒壊しそうだったのだが。
そんな小屋でさえも今の私たちにとって雪を凌げる何よりも嬉しい贈り物だった。
幸いな事に古屋の中には必要最低限のものが揃っていた。
兄さんと姉さんと囲炉裏を囲むようにして座った。
ユラユラと揺れる火を見ると半日の疲れがどっと押し寄せて来た。
でも___
何より、安心感の方が大きかった。
もう怖い思いをしなくていい、自由だって。
そう思った。
同時にお父さんたちはこの空間に居ないって事も気付かされた。
悲しかった、けど___
冷えた頬を伝ってゆく大粒の涙。
それは暖かくて幸せで溢れていた。
小屋のお陰で冬を乗り切った私たちは無事に春を迎えた。
隙間は恐ろしく空いていて風も雪も入ってきて寒かった、けど___
村に居た時より何倍も幸せだった。
頭のいい姉さんが罠を作って兄さんと私が仕掛ける。
その罠に掛かった生き物が私たちの食事だった。
僅かなお金を切り崩して野菜の苗を買い、育てて、食べる。
明日の食べ物の心配を何度もした。
でも、もう心配は無い。
暖かくなれば自然と食べれる物が増えるから。
手始めに、と兄さんと私は山菜採りに出かける事にした。
その時に見た姉さんが___
一生忘れられない記憶になった。
山には思ったよりも多くの山菜が咲いていた。
蕗の薹、タラの芽、蓬、とにかく色々な植物が生えていた。
両手に抱え込むとフワッ と鼻に春の香りが通り抜けて行った。
そう言って戸に手を掛けた時、違和感に気づいた。
静かすぎる。
恐る恐る戸を開けるとそこには___
血塗れの姉さんが横たわっていた。
私の異変に気付いた兄さんが小屋に入ってきた。
抱き上げた姉さんが囁くような声で呟いた。
無事で良かった?
私たちが狙われてたって事?
まさか___
そう、兄さんが言った後姉さんは肯定するように一筋涙を流した。
その瞳が開く事は二度となかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。