藤襲山での最終選別から3年。
私は丁に、兄さんは柱になった。
兄さんは未だに藤襲山での事を引きずっている。
___俺はお前たちとは違う。
___俺は柱なんかじゃない。
そう言って、周囲を拒絶する。
兄さんは実力で柱になったんだよ。
そう言っても兄さんは聞く耳を持ってくれなかった。
3年経った今でもなお、あの時の真菰の感覚が残っている。
自分の腕から命が消えて行った瞬間。
背後で消えて行った命、
目の前で消えて行った命がある事。
それは隊士になった今でも、変わらずにある事だった。
自分に出来る事なら、全員を守りたい。
でも、そんな力は私に無い。
全てが、もどかしかった。
私は鬼殺に向いているのか、
そんな迷いが生じた時に兄さんとの合同任務が来た。
“ ああ ” が無くなって “ そうだな ” だけになった。
さっきから、あまり変わってない。
___他に何か言えないの?
そう聞こうと開けた口を直ぐに閉じる。
どうせ、言ったところで変わらないのだ。
いつも、そうなのだから。
いつから兄さんはこんなに口下手になったのだろう?
剣士に成りたての頃は時々、兄さんの笑顔を見ていた。
そうだ、兄さんが滅多に笑わなくなったのは、
初めて階級が上がった時からだ。
錆兎と真菰に負い目を感じたのか、パッタリと笑わなくなった。
私が何を言っても、兄さんが変わる事は無かった。
唯一笑うのは、鮭大根を食べている時。
___私の前でも笑ってほしい
その願いは叶わぬまま、兄さんは柱になった。
二人で暮らすには広過ぎる屋敷。
顔を見合わせて話したのはいつぶりだろうか。
冬の星空を見上げる私の口からはため息が漏れた。
任務が来ていた鬼の討伐は早かった。
何を考えているのか分からない顔の兄さんの横に並んで歩く。
この瞳は何を捉えているのだろう?
私は、兄さんにちゃんと、見えているのだろうか。
“ 妹 ” として見てくれているのだろうか。
以前から尽きる事を知らない疑問。
そんな事を考えても仕方ない事は分かっている。
今日二度目のため息を吐き出した時、風が吹いた。
それ程強くはない。
髪がたなびく程の強さ。
でも、その一瞬で兄さんの姿が消えた。
一人ポツンと残される。
さっきまで一緒にいた兄さんはどこに行ったの?
嫌な予感がして冷や汗が滑り落ちた。
___ドォォォォォォォォォォオン
そして鳴り響く轟音。
振り向くと周辺の木々が薙ぎ倒されていた。
倒された木々の終着点には兄さんがいた。
その身体は血に塗れ、吹き飛ばされたんだと瞬時に理解出来た。
でも、なんで?
駆け寄ろうとした私を兄さんは止めた。
その蒼く染まった瞳はとても必死そうで……
ねぇ、兄さんには何が見えているの?
どうして私を止めるの?
そんな疑問は次の兄さんの一言で消し飛ぶ。
その時、私は誰かの腕に抱えられる。
逃げようとしても頸を拘束されて逃げられなかった。
紅梅色の瞳と、猫のように細長い瞳孔。
間違いなく鬼舞辻 無惨だった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。