第10話

9話:蒼い瞳は何を
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2023/03/03 14:12






冨岡 (なまえ)
冨岡 あなた
兄さん、任務に行こう?
冨岡義勇
冨岡義勇
あぁ、そうだな




藤襲山での最終選別から3年。

私は丁に、兄さんは柱になった。

兄さんは未だに藤襲山での事を引きずっている。





___俺はお前たちとは違う。

___俺は柱なんかじゃない。




そう言って、周囲を拒絶する。

兄さんは実力で柱になったんだよ。

そう言っても兄さんは聞く耳を持ってくれなかった。




3年経った今でもなお、あの時の真菰の感覚が残っている。

自分の腕から命が消えて行った瞬間。



背後で消えて行った命、

目の前で消えて行った命がある事。

それは隊士になった今でも、変わらずにある事だった。




自分に出来る事なら、全員を守りたい。

でも、そんな力は私に無い。

全てが、もどかしかった。




私は鬼殺に向いているのか、

そんな迷いが生じた時に兄さんとの合同任務が来た。











冨岡 (なまえ)
冨岡 あなた
久しぶりだね、一緒の任務
冨岡義勇
冨岡義勇
ああ、そうだな
冨岡 (なまえ)
冨岡 あなた
さっきから“ ああ、そうだな ”
しか言ってないじゃん
冨岡義勇
冨岡義勇
……そうだな


“ ああ ” が無くなって “ そうだな ” だけになった。

さっきから、あまり変わってない。




___他に何か言えないの?




そう聞こうと開けた口を直ぐに閉じる。

どうせ、言ったところで変わらないのだ。

いつも、そうなのだから。








いつから兄さんはこんなに口下手になったのだろう?

剣士に成りたての頃は時々、兄さんの笑顔を見ていた。

そうだ、兄さんが滅多に笑わなくなったのは、

初めて階級が上がった時からだ。





錆兎と真菰に負い目を感じたのか、パッタリと笑わなくなった。

私が何を言っても、兄さんが変わる事は無かった。

唯一笑うのは、鮭大根を食べている時。




___私の前でも笑ってほしい

その願いは叶わぬまま、兄さんは柱になった。




二人で暮らすには広過ぎる屋敷。

顔を見合わせて話したのはいつぶりだろうか。





冬の星空を見上げる私の口からはため息が漏れた。



















任務が来ていた鬼の討伐は早かった。

何を考えているのか分からない顔の兄さんの横に並んで歩く。

この瞳は何を捉えているのだろう?



私は、兄さんにちゃんと、見えているのだろうか。

“ 妹 ” として見てくれているのだろうか。

以前から尽きる事を知らない疑問。

そんな事を考えても仕方ない事は分かっている。





今日二度目のため息を吐き出した時、風が吹いた。

それ程強くはない。

髪がたなびく程の強さ。

でも、その一瞬で兄さんの姿が消えた。






冨岡 (なまえ)
冨岡 あなた
……え?どこ?



一人ポツンと残される。

さっきまで一緒にいた兄さんはどこに行ったの?

嫌な予感がして冷や汗が滑り落ちた。






___ドォォォォォォォォォォオン







そして鳴り響く轟音。

振り向くと周辺の木々がぎ倒されていた。




冨岡 (なまえ)
冨岡 あなた
っ兄さんッッ






倒された木々の終着点には兄さんがいた。

その身体は血に塗れ、吹き飛ばされたんだと瞬時に理解出来た。

でも、なんで?




冨岡義勇
冨岡義勇
く、来るなッッ



駆け寄ろうとした私を兄さんは止めた。

その蒼く染まった瞳はとても必死そうで……









ねぇ、兄さんには何が見えているの?

どうして私を止めるの?








そんな疑問は次の兄さんの一言で消し飛ぶ。







冨岡義勇
冨岡義勇
……っ鬼舞辻無惨だッッ
冨岡義勇
冨岡義勇
あなた、逃げろッッ



その時、私は誰かの腕に抱えられる。

逃げようとしても頸を拘束されて逃げられなかった。








??
久しいな、あなた





紅梅色の瞳と、猫のように細長い瞳孔。

間違いなく鬼舞辻 無惨だった。












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