___久しいな、あなた
無惨に言われたその言葉が頭の中でグルグルと回る。
私は無惨に会った事があるの?
そんなに親しい仲なの?
憶測を広げながらも、胸が熱くなる。
鬼殺隊の皆が敵と掲げている無惨と、知り合っていた事がショックだった。
無惨の低く鋭利な声が脳裏に張り付く。
その声は過去の記憶を曝け出そうとするかの様に頭の中を這っていった。
鳥肌が立つ。
冷や汗が止まらない。
兄さんを抱えてる手にキュッと力が入った。
無惨の眼には私しか映していなかった。
愛おしそうに見つめるその眼には憎悪すらも感じられる。
悪寒が走り、冷や汗が更に滲んだ。
ゆっくりと近寄って来る無惨を拒む。
身体は動かなかった。
羽織りを握る手だけが兄さんと繋がっている物で、
唯一安心できるものだった。
バキッッ
その音が響いた後に兄さんの姿が消える。
私の手には、兄さんの羽織りのみが残されていた。
兄さんを追った私の顔を無惨の手が掴んだ。
無理矢理、無惨の方へ向かされ顔を手で覆われる。
体の力が抜け、ガクンと膝立ちになる。
頭の中にナニカが流れ込んで来た。
苦しくて、辛くて、何故か悲しくなって、涙が溢れた。
そして、流れて来た記憶もまた、辛く苦しいものだった。
ーーーーーーーーーー
その時は私はただ、ひたすらに “ 誰か ” に許しを、助けを乞うていた。
私の背後に他の人物の影が浮かぶ。
月明かりに照らされたその人物は兄さんだった。
そして、私の目の前にいた “ 誰か ” は無惨だった。
震える声で返したその声には決意が滲んでいるのが分かった。
兄さんは眼を瞑って動かない。
依然として、その記憶は私の中に無かった。
その時、突き抜けるような衝撃が私を襲った。
“ 守りたいから ”
その言葉はしっかりと頭に記憶されていた。
あの日の事だ、と直感的に悟った。
死んだ姉さんの代わりに、私が兄さんを守ると決意したのだから。
それと同時に覆っていた手が外され、
無惨と目が合う。
無惨にそう言われ、言葉に詰まる。
言っている事は正しいのだから。
何なら、私の方が守ってもらっている。
呼吸も上手く扱えず、私なんかに兄さんを守る資格なんてない。
その方が良いのかもしれない。
私が鬼になれば、兄さんは鬼に襲われない。
自然と首が縦に振った。
頷いた無惨を横目に兄さんに近寄る。
血で濡れた頬のそっと触れた。
叶う事なら、永遠にどちらかが死ぬまで一緒に居たかった。
でも、私に兄さんを守れる程の力は無い。
兄さんから流れる血が少しでも少なくなるのなら。
私でも、兄さんを守れるのなら___。
ごめんね、とありがとう、さようなら、の気持ちを込めて。
兄さんの頬にキスをした。
そう言って刀を置き、
腕にはめていたをミサンガを兄さんの手に乗せる。
兄さんを守ってくれる様に、と思いも一緒に。
溢れる涙を拭い、無惨に振り返る。
後悔は無かった。
むしろ兄さんを守れるのなら、本望だ。
胸の奥にあるチクチクとしたモノに気付かないふりをして、
無惨の後を追った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。