私たちの家に入ってきて村長さんが言った。
言っている事がよく分からなかった。
私たちだって今の状況が飲み込めて無かったのだから。
愼寿郎さんが説明してくれたんじゃなかったの?
帰って来た時にはもう鬼は家に居たんだよ?
そう、兄さんと姉さんが何度説明しても村長さんは聞く耳を持たなかった。
“私たちが悪い” の一点張り。
やがてその噂は村中に広がった。
村の人たちは村長さんの事を信じて疑わなかった。
勿論、初めのうちは庇ってくれる人もいた。
同い年のミヨちゃんもトキちゃんもケンタも “悪くない” って言っていた。
私たち家族と親交があった人は私たちを守ってくれた。
でも皆んな離れていった。
私たちを庇うという事は村長さんに背くっていう事だから。
この先もこの村で暮らしていくには従っておいた方が無難だと判断したのだろう。
身勝手なオトナの事情でミヨちゃんたちも離れていった。
“ごめんね” って言いながら私の手を振り払ったミヨちゃん。
トキちゃんもケンタも見てるだけで何もしなかった。
俯いて目を合わせなかった。
巫山戯るな。
愼寿郎さんは村長に何を言ったの?
事情を話すって何を話す事なの?
キサツタイって鬼を殺してそれで終わりなの?
姉さんに聞いても笑うばかりで答えてくれなかった。
___呪われた家族
いつしかそんな風に呼ばれるようになった。
大人数で1つの家族を虐めて何が楽しいのだろう?
殴って、蹴って、踏みつけて、何が楽しいのだろう?
人が泣くのを見て笑っているオトナを怖いと思った。
ナニカに取り憑かれたようにケタケタと笑うナニカ。
鬼より、ヒトの方が何倍も怖かった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。