第5話

4話:壊れ始める
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2023/03/03 14:11









村の人
村に鬼を連れ込んだのは冨岡家のせいだ。






私たちの家に入ってきて村長さんが言った。


言っている事がよく分からなかった。


私たちだって今の状況が飲み込めて無かったのだから。





愼寿郎さんが説明してくれたんじゃなかったの?


帰って来た時にはもう鬼は家に居たんだよ?








そう、兄さんと姉さんが何度説明しても村長さんは聞く耳を持たなかった。


“私たちが悪い” の一点張り。


やがてその噂は村中に広がった。


村の人たちは村長さんの事を信じて疑わなかった。







勿論、初めのうちは庇ってくれる人もいた。


同い年のミヨちゃんもトキちゃんもケンタも “悪くない” って言っていた。


私たち家族と親交があった人は私たちを守ってくれた。









でも皆んな離れていった。


私たちを庇うという事は村長さんに背くっていう事だから。


この先もこの村で暮らしていくには従っておいた方が無難だと判断したのだろう。





身勝手なオトナの事情でミヨちゃんたちも離れていった。


“ごめんね” って言いながら私の手を振り払ったミヨちゃん。


トキちゃんもケンタも見てるだけで何もしなかった。


俯いて目を合わせなかった。










巫山戯るな。







愼寿郎さんは村長に何を言ったの?


事情を話すって何を話す事なの?


キサツタイって鬼を殺してそれで終わりなの?







姉さんに聞いても笑うばかりで答えてくれなかった。











___呪われた家族








いつしかそんな風に呼ばれるようになった。


大人数で1つの家族を虐めて何が楽しいのだろう?









殴って、蹴って、踏みつけて、何が楽しいのだろう?


人が泣くのを見て笑っているオトナを怖いと思った。


ナニカに取り憑かれたようにケタケタと笑うナニカ。









鬼より、ヒトの方が何倍も怖かった。























お父さんとお母さんが居なくなったウチに収入は無い。


働き手が居ないのだから当然の事。



はじめのうちは情けを掛けて仕事をくれる人もいた。



でも、次第に減っていった。







木を切って薪にして隣町へ売りにいく。


村で売っても買ってくれる人なんかいないから。



子供の足で歩いて半日。






朝早くに出て夜遅くに家に着く。


そのやっと着いた家も荒らされている。


物を隠され、盗まれて、金を巻き上げられる。








気丈に振る舞っていた姉さんにも限界が来ていた。




冨岡蔦子
冨岡蔦子
もう、ヤダッッ
いつまで耐えれば良いのよ…



お父さんたちが居なくなって初めて見た姉さんの涙に驚いた。


私や、兄さんが泣いても動じてなかったから。




“大丈夫、いつか皆さんも分かってくれるよ”





って頭を撫でながら優しく笑いかけてくれた。


姉さんは泣かないって信じ込んでいた。







でも、それは間違っていた___






冨岡義勇
冨岡義勇
村の人の目が届かないところに行こう
そこでもう一度暮らすんだ





兄さんの提案に私たちはすぐに賛成した。


夜遅くに出て行ったはずなのに私たちを罵声が追いかけてきた。












寒い雪の降る夜の事だった。












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