第9話

8話:別れ
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2023/03/03 14:12





冨岡 (なまえ)
冨岡 あなた
……っう



目を覚ますと身体のあちこちが痛んだ。

至るところから血が滲み赤く色づいている。








___カキンッ



遠くからは刀の当たる音が聞こえて来た。




目を凝らしながら見ると、
先程の鬼と錆兎が戦っているところだった。





冨岡 (なまえ)
冨岡 あなた
錆兎を助けないと……えっ


立ちあがろうとした時に手が何か布のようなものに触れた。




慌てて振り向くとそこには、


___私が倒れた場所の隣には真菰が倒れていた。

その小さな背中はか細く上下しているだけだった。


冨岡 (なまえ)
冨岡 あなた
真菰ッッ  ねぇ、大丈夫!?


真菰
真菰
……逃げ、て、あなた……


そう顔を歪ませながら言った。

何がなんだか、さっぱり分からなかった。


と、取り敢えず錆兎をッッ









___パキンッ



___グシャッ










刀が折れた音と、肉が、骨が、握り潰された音が辺りに響いた。

嘘だって思った。

錆兎が負けるはずがない。

私たちの中で一番強いんだから。




絶対、絶対ない。

そう思っていても振り向けない自分がいた。

自信がなかった。

だって握り潰すことが出来るなんて鬼しかいないのだから。










真菰
真菰
……あなた、逃げてよ…
このままだと、あなたも、死んじゃう……
冨岡 (なまえ)
冨岡 あなた
無理、だよ
真菰も一緒に逃げようよッッ
真菰
真菰
私は……いいから
冨岡 (なまえ)
冨岡 あなた
ダメだよ!真菰も一緒じゃなきゃ嫌だッッ



真菰は首を縦に振らなかった。

私に “ 逃げろ ” としか言わなかった。


真菰
真菰
ねぇ……見てよ



真菰がそう言って指差したのは自身の身体だった。

真菰
真菰
血がいっぱい出て、止まらないの
だから私はすぐ、死ぬ
真菰
真菰
あなたには、生きて…ほしい



涙が止まらなかった。

軽い気持ちで入ったこの世界。

こうなる事を___







___大切な人が目の前で居なくなってしまう事を、



理解していなかった。

分かったつもりになっていただけだった。





そんな事起こるわけがないと思い込んでいた。

そう信じていたかった。

破壊されて初めて絶対とずっとはただの願望でしかない事に
気付かされる。


冨岡 (なまえ)
冨岡 あなた
……っ諦めないからッッ



真菰の身体の下に手を差し込んで持ち上げる。

あの鬼から逃げるように、東へと進んだ。



太陽が昇る方向へと。

だんだんと冷たく冷えていく真菰の身体を抱えながら。














次に意識がはっきりとしたのは山ではない
どこかだった。


腕の中にいた真菰の姿はなく、
こびりついていた血は跡形もなく消えていた。


隣には兄さんが寝かされていた。



冨岡 (なまえ)
冨岡 あなた
兄さんッッ
冨岡義勇
冨岡義勇
……ここは?
それに錆兎と真菰は……?



その一言で現実に引き戻される。

錆兎と真菰はもう居ない。









たったそれだけを伝えるのに、時間は掛からなかった。

寂しさと悔しさが心を埋め尽くしていた。

痛いほどに輝いていた、二人の笑顔が脳裏に焼きついていた。















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