目を覚ますと身体のあちこちが痛んだ。
至るところから血が滲み赤く色づいている。
___カキンッ
遠くからは刀の当たる音が聞こえて来た。
目を凝らしながら見ると、
先程の鬼と錆兎が戦っているところだった。
立ちあがろうとした時に手が何か布のようなものに触れた。
慌てて振り向くとそこには、
___私が倒れた場所の隣には真菰が倒れていた。
その小さな背中はか細く上下しているだけだった。
そう顔を歪ませながら言った。
何がなんだか、さっぱり分からなかった。
と、取り敢えず錆兎をッッ
___パキンッ
___グシャッ
刀が折れた音と、肉が、骨が、握り潰された音が辺りに響いた。
嘘だって思った。
錆兎が負けるはずがない。
私たちの中で一番強いんだから。
絶対、絶対ない。
そう思っていても振り向けない自分がいた。
自信がなかった。
だって握り潰すことが出来るなんて鬼しかいないのだから。
真菰は首を縦に振らなかった。
私に “ 逃げろ ” としか言わなかった。
真菰がそう言って指差したのは自身の身体だった。
涙が止まらなかった。
軽い気持ちで入ったこの世界。
こうなる事を___
___大切な人が目の前で居なくなってしまう事を、
理解していなかった。
分かったつもりになっていただけだった。
そんな事起こるわけがないと思い込んでいた。
そう信じていたかった。
破壊されて初めて絶対とずっとはただの願望でしかない事に
気付かされる。
真菰の身体の下に手を差し込んで持ち上げる。
あの鬼から逃げるように、東へと進んだ。
太陽が昇る方向へと。
だんだんと冷たく冷えていく真菰の身体を抱えながら。
次に意識がはっきりとしたのは山ではない
どこかだった。
腕の中にいた真菰の姿はなく、
こびりついていた血は跡形もなく消えていた。
隣には兄さんが寝かされていた。
その一言で現実に引き戻される。
錆兎と真菰はもう居ない。
たったそれだけを伝えるのに、時間は掛からなかった。
寂しさと悔しさが心を埋め尽くしていた。
痛いほどに輝いていた、二人の笑顔が脳裏に焼きついていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。