姉さんが死んだ。
村の人に殺されて死んだ。
悲しくて辛かった。
兄さんと2人で姉さんの横に並んで寝た。
触るとヒヤッとして固かったけど、ちゃんと姉さんだった。
目は覚さなくても、起き上がらなくても、“おはよう”って言ってくれなくても、
姉さんはそこに存在していた。
姉さんがずっと寝てるから私たちも一緒に寝た。
お腹が空いたとか、
悲しいとか、
虚しいとか、
悔しいって気持ちは何日か経ったら蝋燭の火のようにフッと消えた。
その時はまだ春と言っても寒く、姉さんの遺体が腐り果ててしまうなんて事は無かった。
何の気力も起きずただ無機質に毎日が通り過ぎていった。
でも、鬼が来た。
いつもの様に姉さんと兄さんと一緒に居たら小屋のドアが吹き飛ばされて鬼が入って来た。
この時ばかりは焦って兄さんと2人部屋の隅へ逃げた。
意地汚く涎を垂らし、姉さんを喰い始めた。
木のように硬くなった姉さんをものともせず、鬼は姉さんに噛み付いた。
バリバリ
耳を塞ぎたくなるような音が部屋に響いた。
姉さんを取り戻したくても兄さんが手を掴んで離さなかった。
今まで感じた事が無い、肌が捻り潰されるような兄さんの握力に私は成す術が無かった。
姉さんを喰い散らかした鬼は立ち上がり私の方を見た。
そして近寄って両肩を掴んだ。
身体中の毛が一気に逆立ち、同時に死を覚悟した。
私に出来る事は何も無くて、
立つ事すら難しくて、
大人しく食われるだけだって、そう思っていた。
兄さんも鬼に吹き飛ばされて気を失っていたから。
壊されたドアから覗く月はとても綺麗で、丸かった。
その瞬間、月に影が出来て私の顔に掛かっていた生臭い匂いは消し飛び
天狗のお面を付けた人が立っていた。
これが鱗滝さんとの出会いだった。
鱗滝さんは私たちを連れ帰ってくれた。
鱗滝さんの家には私たちと同じくらいの子供がいた。
錆兎と真菰___
2人と友達になった。
何日か振りに私は声を立てて笑った。
その後、3年間鱗滝さんの元でお世話になった。
鱗滝さんが育手をしている事。
鬼殺隊士になる為には藤襲山で行われる最終選別に受からないといけない事。
鬼殺隊について全て教えてもらった。
姉さんが亡くなってから滅多に話さなくなった兄さんが鬼殺隊士になりたい、と言った。
錆兎と真菰もなるって言ってた。
私は深く考えずに鬼殺隊士になる事を決めた。
でも、この世界はそんな生易しいものでは無い。
鬼殺隊士になると決めてから鱗滝さんによる修行が始まった。
私たちを殺す気で来ている。
仕掛けられた罠を見るたびにそう思った。
突き出した刃物、突然降ってくる大量の丸太。
毎日が必死で、でも、楽しかった。
そんなこんなで3年の修行を経て、今日、私たちは最終選別へと向かう。
兄さんと真菰、錆兎、
それと厄除の面と共に。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。