目を丸くして尋ねてくる加山くんに、少し肩を竦めて苦笑いしながら返した。辛くないわけが無い。この病気のせいで、何度泣いたことか。何度、自分を恨めしく思ったか。死にたいと、願ったことか。
私と同じように苦笑いして、加山くんはもう一度スマホに画面を落とす。私が硝子性欠陥症だと分かった途端、誰もが同じことを言う。「辛いね」って。何も知らないくせに。どうして私が辛いのか、知らないのに。
影を落とす、暗い表情をした加山くんに、出来るだけ明るい声を出した。加山くんが、連れていってくれる。外に行ける。それだけで、私は大丈夫だと思えた。だから今は大丈夫なんだ。本当は辛くても、目の前にある一つ一つの明るい未来が、私を生きさせてくれる。もっと生きたいと思わせてくれる。だから、今の私は辛くない。
私の言葉に一瞬驚いた顔をして、くしゃっと顔を崩して笑った。その笑顔が、あまりにも幼く見えた。
わかんないや、という加山くんの言葉に、二人して笑った。カーテンの向こうから差す月光が、淡く輝いていた。その光はまるで、死にかけていた私の心に差した、たった一筋の光のように思えた。今その光を掴まなければ、もう二度と見られないような、脆くて淡い、細い細い希望。その光はきっと加山くんで、そこに広がる虚無の闇は私の心。私の全ての闇を取り払うことなんて不可能だし、きっと半分も取り除けない。だけど、それでもいい。ほんの少しでも、安らげる場所があるのなら。
ぱっ、と頭にでてきた質問がこれだった。何も言わなくても良かったのだと思う。だけど、不意に出てきたこの質問は、私がGoサインを出す間もなく口から溢れ出た。
案の定、返ってきたのは呆れたよう、気の抜けたような声。
どこか拗ねたような表情をして、ぽつりと呟いた。
だからなんだと言うのだろう。私にとっては関係の無いことのはずだけど、不意に出てきた質問と、この加山くんの返事が、私の好奇心に火をつけた。そして、少し狂った私の思考回路が、一つの道を導き出した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。