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第16話

辛くない、私は。
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2019/12/16 10:41
加山陸都
加山陸都
辛くないの?
利根川夕陽
利根川夕陽
辛くない・・・って言ったら嘘になる。
目を丸くして尋ねてくる加山くんに、少し肩を竦めて苦笑いしながら返した。辛くないわけが無い。この病気のせいで、何度泣いたことか。何度、自分を恨めしく思ったか。死にたいと、願ったことか。
加山陸都
加山陸都
やっぱり、辛いんじゃん。
私と同じように苦笑いして、加山くんはもう一度スマホに画面を落とす。私が硝子性欠陥症だと分かった途端、誰もが同じことを言う。「辛いね」って。何も知らないくせに。どうして私が辛いのか、知らないのに。
利根川夕陽
利根川夕陽
外に、出られないからね。辛いよ、正直。別に外に行くのが別段好きって訳じゃない。でも、少しくらい出たいと思う。
加山陸都
加山陸都
そうだよな・・・。
利根川夕陽
利根川夕陽
でも、加山くんが連れていってくれるんでしょ?
影を落とす、暗い表情をした加山くんに、出来るだけ明るい声を出した。加山くんが、連れていってくれる。外に行ける。それだけで、私は大丈夫だと思えた。だから今は大丈夫なんだ。本当は辛くても、目の前にある一つ一つの明るい未来が、私を生きさせてくれる。もっと生きたいと思わせてくれる。だから、今の私は辛くない。
加山陸都
加山陸都
まぁな。
私の言葉に一瞬驚いた顔をして、くしゃっと顔を崩して笑った。その笑顔が、あまりにも幼く見えた。
利根川夕陽
利根川夕陽
(こんな顔もできるんだ。)
加山陸都
加山陸都
まぁ、俺はせめて半殺しで済むように頼んでみるよ。大丈夫だと思うけどさ。
利根川夕陽
利根川夕陽
大丈夫なの?それ。
わかんないや、という加山くんの言葉に、二人して笑った。カーテンの向こうから差す月光が、淡く輝いていた。その光はまるで、死にかけていた私の心に差した、たった一筋の光のように思えた。今その光を掴まなければ、もう二度と見られないような、脆くて淡い、細い細い希望。その光はきっと加山くんで、そこに広がる虚無きょむの闇は私の心。私の全ての闇を取り払うことなんて不可能だし、きっと半分も取り除けない。だけど、それでもいい。ほんの少しでも、安らげる場所があるのなら。
利根川夕陽
利根川夕陽
そうだ。加山くん、君は彼女とかいるの?
加山陸都
加山陸都
・・・は?
ぱっ、と頭にでてきた質問がこれだった。何も言わなくても良かったのだと思う。だけど、不意に出てきたこの質問は、私がGoサインを出す間もなく口から溢れ出た。
案の定、返ってきたのは呆れたよう、気の抜けたような声。
利根川夕陽
利根川夕陽
ほら、私ここ最近そんな話出来てないから。つい、したくなっちゃって。
加山陸都
加山陸都
そんなん知らないけど・・・。まぁ、居ないけどさ。
どこか拗ねたような表情をして、ぽつりと呟いた。
利根川夕陽
利根川夕陽
(そうかぁ、居ないのかぁ。)
だからなんだと言うのだろう。私にとっては関係の無いことのはずだけど、不意に出てきた質問と、この加山くんの返事が、私の好奇心に火をつけた。そして、少し狂った私の思考回路が、一つの道を導き出した。
利根川夕陽
利根川夕陽
加山くんが半殺しにならないようにさ。私が彼女の振りをしてあげるよ。

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