第10話

2回目の、初めまして
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2019/12/01 09:27
向こう側から聞こえた少年の声は、驚きを隠せていなかった。カーテンを開けるこの一歩が踏み出せない。簡単なことのはずなのに。
加山陸都
加山陸都
開けても、大丈夫?
カーテン越しに聞こえる、優しげな声。それに、思わずいいよ、と言いかけた。しかし、その一瞬を躊躇った。すると、部屋の扉がノックされた。
利根川夕陽
利根川夕陽
(誰・・・?)
私が体を強ばらせると同時に、誰も入室許可を出していないにも関わらず、扉は開かれた。そして、向こうから聞こえるのは、数人の足音。私への来客か、彼への来客か。カーテンを開けていない今、どちらなのか予想もできない。
加山陸都
加山陸都
ごめん。
少年はそれだけを言うと、少し空いていたカーテンの隙間を閉めた。いきなりのことに驚きつつ、彼の来客だったのか、とほんの少し安心した。
不良たち。
不良たち。
陸都、調子はどうだー?
不良たち。
不良たち。
早くやろーぜ!この間の仮を返さないとな!
不良たち。
不良たち。
ったく、情けねぇなぁ。
向こう側から、大きな声が幾つも聞こえる。しかし、その中に少年の声はなかった。
利根川夕陽
利根川夕陽
(名前、陸都・・・って言うのか。聞いたことある、ような。)
頭の中を何かが走り抜けるような感覚になった。でも、それも一瞬のことですぐに頭痛が襲ってきた。
利根川夕陽
利根川夕陽
っ・・・。
どこか本能的に、言葉を発してはいけないと思い、必死で声を殺した。その代わりに漏れるのは、小さな吐息。向こう側の声は大きくなるばかり。
段々と、ストレスが溜まっていくのが自分でもわかった。
不良たち。
不良たち。
まだ立てねぇの?
不良たち。
不良たち。
お得意の回し蹴りも?
不良たち。
不良たち。
それできなきゃ使えねー!
あぁ、うるさい。ベッドもあるんだから、この部屋にもう一人人がいることは馬鹿でもわかるはず。だけど、そんなこと気づいてもいないのか、気づいていても気にしていないのか、彼らの声が小さくなることは無かった。
加山陸都
加山陸都
誰、ですか。
しかし、陸都の放った一言で、一瞬にして空気が変わった。時間が止まった。そう感じる程だった。
不良たち。
不良たち。
マジか・・・。
不良たち。
不良たち。
本気で覚えてねぇんだな。
不良たち。
不良たち。
嘘じゃなかったのか。
口々になにか呟くと、一人がため息混じりに指示を出した。
不良たち。
不良たち。
「仕方ねぇ、記憶がねぇなら、ここに来ても意味無い。出直すぞ。」
その一言で、一気に退散していく。そして、全員が病室から出て暫くしてから、再びカーテン越しに声をかけられた。同じ言葉を。
加山陸都
加山陸都
開けても、大丈夫?
今回は、知りたがりが影響して、いいよと言ってしまった。
加山陸都
加山陸都
うるさくてごめん。
開きながら、陸都が声をかけてきた。
利根川夕陽
利根川夕陽
別に。
素っ気なく返すと、陸都は遠慮なしにカーテンを開けた。
加山陸都
加山陸都
2回目の、初めましてかな。
そう言いながら。

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