走った、とにかく。
先生も、三人も、町谷くんも、
皆追い越して。
何もかもから逃げるように走った。
後で問い詰められたって良い。
ただ、今。
この涙を誰かにみられる訳にはいかなかった。
私は、皆のバンガローから少し離れた先の、
小さなベンチに腰掛け、
足を上げて、体育座りの様な形で踞った。
まだ、涙が、止まらない。
あの現実を、目では理解し、受け止めた筈。
それでも、脳が、私の心がそれを受け付けない。
少し、息が途切れ途切れの町谷くんが、
私の目の前にいた。
きっと、通り越して走っていった私を見て、
探して来てくれたのだろう。
てっきり「戻ろう」とか言われるのかと思ってた私は、
唖然としてしまった。
と、またしゅんとした顔をするから。
少し、微笑んでしまった。
そうだ、町谷くんに拾ってもらったんだ。
本当は、嫌と言う筈なのに。
町谷くんは不思議と許せた。
隣に座って、町谷くんも、
サンドイッチを食べ始める。
私も、メロンパンをひとかじりした。
私は、
夢を見たこと、今までのこと、
告白を聞いてしまったこと、
辛いこと。
自分が臆病者で、意気地無しであること。
ひかりにも言えなかったことまで、
彼に話してしまった。
でも、そうしていたら、
自然に私の目から溢れる涙は止まっていた。
甘くて、苦くて、時に酸っぱくて。
初恋も、勿論、
二度目であろうが、三度目であろうが。
『恋』というものは、
夢のような、話である。
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『夢恋しぐれ』 END
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。