第23話

夢のような恋
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2020/01/16 10:58
走った、とにかく。


先生も、三人も、町谷くんも、


皆追い越して。


何もかもから逃げるように走った。


後で問い詰められたって良い。


ただ、今。


この涙を誰かにみられる訳にはいかなかった。
私は、皆のバンガローから少し離れた先の、


小さなベンチに腰掛け、


足を上げて、体育座りの様な形で踞った。


まだ、涙が、止まらない。


あの現実を、目では理解し、受け止めた筈。


それでも、脳が、私の心がそれを受け付けない。
町谷 朔
町谷 朔
阿彗…さん…。
少し、息が途切れ途切れの町谷くんが、


私の目の前にいた。


きっと、通り越して走っていった私を見て、


探して来てくれたのだろう。
阿彗 時雨
阿彗 時雨
ごめん…一人に…
町谷 朔
町谷 朔
お腹、空いてない?
阿彗 時雨
阿彗 時雨
…え?
てっきり「戻ろう」とか言われるのかと思ってた私は、


唖然としてしまった。
町谷 朔
町谷 朔
はい、メロンパン。
阿彗 時雨
阿彗 時雨
はは…問答無用ですか…
町谷 朔
町谷 朔
あっ、もしかして、嫌いだった!?
と、またしゅんとした顔をするから。


少し、微笑んでしまった。
阿彗 時雨
阿彗 時雨
ううん、大好物。よく分かったね。
町谷 朔
町谷 朔
…だって、あの日拾ったでしょ?
阿彗 時雨
阿彗 時雨
…!あ…!
そうだ、町谷くんに拾ってもらったんだ。
町谷 朔
町谷 朔
…隣、良い?
阿彗 時雨
阿彗 時雨
…うん。
本当は、嫌と言う筈なのに。


町谷くんは不思議と許せた。


隣に座って、町谷くんも、


サンドイッチを食べ始める。
私も、メロンパンをひとかじりした。
町谷 朔
町谷 朔
…ごめんね、こんなこと聞くの、
嫌かもしれないけれど。
町谷 朔
町谷 朔
辛いことは、誰かに話すと、
少し軽くなるかもしれないよ。
阿彗 時雨
阿彗 時雨
…!
町谷 朔
町谷 朔
俺は、
笑ってる阿彗さんが好きだから。
阿彗 時雨
阿彗 時雨
…え!?
町谷 朔
町谷 朔
あぁ~…気にしないで?
阿彗 時雨
阿彗 時雨
うぅん、ありがとう。
お世辞でも、今は嬉しい。
阿彗 時雨
阿彗 時雨
誰にも…言わないでね。
町谷 朔
町谷 朔
分かった。
私は、


夢を見たこと、今までのこと、


告白を聞いてしまったこと、


辛いこと。


自分が臆病者で、意気地無しであること。


ひかりにも言えなかったことまで、


彼に話してしまった。


でも、そうしていたら、


自然に私の目から溢れる涙は止まっていた。
阿彗 時雨
阿彗 時雨
───っていう。
本当に、恥ずかしい話で…。
町谷 朔
町谷 朔
傷心に漬け込んでいるとか、
そういうことじゃないんだけどね。
町谷 朔
町谷 朔
これは、
ずっと言おうと思ってたから。
町谷 朔
町谷 朔
────俺じゃ駄目ですか?
阿彗 時雨
阿彗 時雨
え…何が?
町谷 朔
町谷 朔
君の───
町谷 朔
町谷 朔
恋人に。










甘くて、苦くて、時に酸っぱくて。


初恋も、勿論、


二度目であろうが、三度目であろうが。


『恋』というものは、


夢のような、話である。




















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『夢恋しぐれ』 END

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