夢を見た。
それはとても悲しい夢で。
初恋の相手が、奪われてしまう話。
奪われる?
いいや、違う。
私が臆病で、告白も出来ずに、
ただ呆然と立ち尽くす、私の恥ずかしい姿。
そうだよ、私は恋なんか、しちゃいけない。
したって、絶対、叶わない。
こんな顔で、こんな姿で。
高校生活二年目でも、友達はゼロ。
やめよう、真面目に授業を受けて、
あと一年と半年程を静かに過ごしていけば良い。
浮かない顔、笑顔が作れない、高い身長。
勉強しか取り柄の無い私に、
振り向いてくれる王子様はいないから。
それに比べて、クラスにいる、
もう一人の「しぐれ」さんは、
面白くて、優しくて、皆の人気者で。
スポーツ万能で、それでいて可愛い。
お友達も沢山いる。
どれだけ私と違うところがあるだろう。
何度か話しかけてみようとはした。
でも、喉につっかえて、声が出なかった。
もしも、私なんかが友達になったとして、
いじめられてしまったら?
逆に阿彗さんがいじめられてしまったら?
いや、こんなネガティブな思考だからこそ、
一人も友達がいないのだろう。
そんな風に学校は憂鬱に過ごす。
だけど、今日は。
廊下で阿彗さんとぶつかってしまった。
「え?」なんて返されて、
私は明日からいじめられてしまうのではないか。
謝り方が悪かったのかな…
そう二時間目も過ごしていた。
思わず、小さな溜め息が溢れてしまって。
ビックリした。
隣の席の猫塚くん…。
彼も阿彗さんと同じくらい皆の人気者で、
休み時間はいつも皆が集まってくる。
そこでクラスメイトの人とぶつかることも多い。
そんな彼が、私に…?
と、教科書を盾にするように机に突っ伏す形で私を見る。
嬉しすぎて、少し手が震える。
嫌な夢を見た日なのに、こんなことあっていいのか。
いつぶりだろうか、
こんなにクラスメイトと話をしたのは。
ニシシッと私に笑い掛けてくれる猫塚くんは、
どこかカッコ良くて、胸が少し痛くなった。
この痛みは、一体何なのでしょう…。
その正体に気付くのは、案外早くて。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!