千都世の言ったことの意味を、俺は懸命に理解しようとした。
女慣れしている、と言われているような気がしたけれど、気のせいだろうか。
千都世は無意識かもしれないが、唇を尖らせている。
俺に他の女の子の影が見えても、千都世は気にしないのかと思っていた。
ニヤニヤしそうなのを必死に耐えて、喜んだのも束の間。
これはまずい状況であることに、ようやく気付いた。
千都世は、俺が女の子の扱いに慣れていると、勘違いをしている。
繋いだ手に力を込めると、千都世の顔がこちらを向いた。
目が少し潤んでいて、寒さで頬と鼻が赤くなっている。
一旦深呼吸をして、言葉を探す。
反論は、途中から声がしぼんでしまった。
声は街の喧噪でかき消され、千都世に全部は聞こえていなかったようだ。
どうして、俺はこんなに情けないのだろう。
千都世は、ほっとしたように笑った。
その表情がまたかわいくて、今にも抱きしめたいほどだ。
でも、ここは余裕のある対応をしなければ、また『弟』に見られてしまう。
俺は、顔を赤くしているのを見られたくなくて、そっぽを向いた。
***
最後にイルミネーションを見て帰る予定だったけれど、日が完全に落ちるまで時間がある。
そこで、書店で時間を潰すことになった。
千都世が「クリスマスプレゼントとして、お互いに選んだ本を一冊、プレゼントしようよ」と提案したのだ。
幼稚園で親の迎えを待つ間、俺たちはよく絵本を読んでいた。
その時から、ふたりとも読書好きなのだ。
千都世に見られないよう、一冊を選んで、ラッピングしてもらった。
本の内容は家に帰ってからのお楽しみということで、それぞれ鞄にしまった。
どちらからともなく、再び手を繋ぐ。
他愛のない会話をしながら、目的地に向かう間も、俺の頭は告白のことでいっぱいだった。
絶対に、そんな甘い言葉は出てこない。
一通り見終わった後、俺は一度深呼吸をした。
この鈍感な幼馴染みには、直球ストレートを投げないと受け止めてもらえない。
もう、逃げるのはやめだ。
はっきりと、千都世の耳に聞こえるように、俺は一世一代の告白をした。
【第8話に続く】
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!