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第1話

弟扱いをやめて
クラスメイト
クラスメイト
悠一郎ゆういちろう、進路調査の紙ってもう出した?
番場 悠一郎
番場 悠一郎
え? ああ、まだだけど
クラスメイト
クラスメイト
だよなー。
俺が行きたい大学だと親が納得してなくてさ……勝手に出したら三者面談でもめそう

冬休みを目前に控えた十二月。


放課後の教室は、進路に悩む友達やクラスメイトがまだ多く残っている。 
番場 悠一郎
番場 悠一郎
(俺も進路を固めないと、だな)

三年生は、受験モード真っ只中。


二年生の俺にはまだまだ先のことだと思っていたけれど、すぐそこまで受験というものが迫ってきているのだ。


ぼんやりと、この大学に行きたいとは思っているのだけれど、本当にそれでいいのかは決めかねている。


そんな今日は、俺の幼馴染みでひとつ年上の千都世ちとせが、推薦入試で志望大学合格を決めた日でもある。



***



番場家・母
番場家・母
千都世ちゃん、合格おめでとう!
番場家・父
番場家・父
推薦入試で決めるとは、さすがだな
菅原 千都世
菅原 千都世
ありがとうございます! おばさん、おじさん

夜、千都世の合格祝いのパーティが、千都世の家で開かれることになった。


家が隣同士、昔から親交があって、更に両親たちが仲がいい。


母さんは腕によりをかけて料理を作ったし、父さんはホールケーキを買ってくるという気合いの入れよう。


俺が一年後に合格しても、こんなに華やかにはならなさそうだ。
番場 悠一郎
番場 悠一郎
千都世、合格おめでとう
菅原 千都世
菅原 千都世
ありがとう!
来年は悠一郎の番だね
番場 悠一郎
番場 悠一郎
……まあ、頑張るよ
菅原 千都世
菅原 千都世
私は春から一人暮らしだからさ、遠くから応援しておくよ

その言葉に、はっとした。
番場 悠一郎
番場 悠一郎
(そうか、千都世はもうすぐここから出ていくんだ……)

考えてみれば当たり前のことなのに、今になって気付いた。


幼少期からの幼馴染み、というのは厄介やっかいなもので。


千都世はしっかり者だし、世話焼き気質なのもあって、昔から俺のことをよく構ってかわいがってくれた。


小学生にもなれば、その頃にはかなり、千都世のことが好きになっていた。
菅原 千都世
菅原 千都世
よし!
じゃあ頑張れるおまじない、かけておこう
番場 悠一郎
番場 悠一郎
また頭撫でるやつかよ……

千都世は笑いながら手を伸ばし、頭ひとつ分は背の高い俺の頭を撫でた。
番場 悠一郎
番場 悠一郎
(やっぱり、『弟』としてしか見てないよな)

これも、昔から変わらない。


ひとりっ子同士、姉弟きょうだいのように育ってきた。


千都世も、周囲に「悠一郎は弟みたいなもの」と言っている。


気持ちを伝えようとしてみたこともあったけれど、俺はどうやら相当な臆病者のようで。


未だに「好き」だと言えたことがない。
番場 悠一郎
番場 悠一郎
(でも、早く言わないと、千都世は遠くに行ってしまう……!)

永遠に『弟』のままなんて、勘弁してほしい。


そんな俺の焦りなんかつゆ知らず、千都世は俺の目の前でにこにこしている。


しかしそんな表情も、次の瞬間には気まずそうなものに変わった。
番場 悠一郎
番場 悠一郎
どうした?
菅原 千都世
菅原 千都世
悠一郎、明日が誕生日だったよね
番場 悠一郎
番場 悠一郎
え? ああ、そうだった……
菅原 千都世
菅原 千都世
ごめん!
受験のことで頭がいっぱいで、プレゼントを用意する余裕がなかったの。
だから、今年はひとつだけ、なんでもお願いを聞いてあげる

毎年、互いの誕生日にはプレゼントを贈り合うのが恒例になっていた。


でも、千都世は連日夜中まで受験勉強をしていたし、今年はそんな余裕がなかったことくらい俺でも分かる。


「気にしなくていい」と言いかけて、俺はふと止めた。


せっかくのチャンスなのだから、ここは甘えるべきだ。


「弟扱いをやめて、ひとりの男として見てほしい」――これだ。
菅原 千都世
菅原 千都世
なにがいい?
番場 悠一郎
番場 悠一郎
弟、じゃなくて

いざ、口に出そうとしてみると、恥ずかしさが一気に込み上げてくる。
菅原 千都世
菅原 千都世
ん?
番場 悠一郎
番場 悠一郎
……年上みたいに接してほしい

恥ずかしさを誤魔化すために出てきたのは、そんな言葉だった。


自分の情けなさを、これほど呪ったことはない。


【第2話につづく】