第5話

告白する決意
4,895
2020/01/06 09:09
番場 悠一郎
番場 悠一郎
(ニヤニヤするなっていう方が無理だろ、これは)

千都世がソファの方に行ってくれてよかった。


喜びをかみ殺している顔は、きっと千都世に見せられたものではない。


千都世は、明らかに俺を意識してくれている。


それで、鈍感ゆえにどうしたらいいか分からず、戸惑っているのだ。


立場を逆転させることがこんなにも功を奏するとは、思ってもみなかった。
番場 悠一郎
番場 悠一郎
はい、できた。
おまたせ
菅原 千都世
菅原 千都世
うわあ、おいしそう。
いだだきます!

ふたり分の鍋焼きうどんをテーブルに運ぶと、千都世は顔を輝かせた。


簡単に調理できる上に、冬の定番メニューと言ってもいいだろう。


さすがに空腹には逆らえなかったらしく、千都世はいそいそと箸をとった。
菅原 千都世
菅原 千都世
私、春からの一人暮らし、ちゃんと自炊できるかな……

食べながら、千都世が突然そんなことを言った。


料理が得意でなくても、やってるうちに少しずつできるようになっていくものだが。


ただでさえひとりきりになるのだから、不安になるのは当然だろう。
番場 悠一郎
番場 悠一郎
……たまになら、俺が作りに行ってやってもいいけど
菅原 千都世
菅原 千都世
え?

どれだけの時間と交通費がかかるのかは、この際どうでもいい。


アピールできる時にはしておかないと、千都世は鈍感だから響かないのだ。
菅原 千都世
菅原 千都世
あはは。
今の、なんかお兄ちゃんぽかった

本気にとられていない。


こういう勘違いは早めに直さないと、このままグダグダになってしまう。
番場 悠一郎
番場 悠一郎
……いや、別にお兄ちゃんとして言ってるわけじゃ
菅原 千都世
菅原 千都世
だって、悠一郎は進路が決まってないでしょ?
悠一郎が卒業して、もしも遠く離れたとこに行ったら、簡単に会いになんて来られないよ

どうして早めに進路を固めておかなかったのかと、俺は後悔した。


ひとつ歳が違うだけなのに、どうしても壁を越えられない。
番場 悠一郎
番場 悠一郎
もしかしたら、千都世が住むところに近い大学に、俺も行くかもしれないし……
菅原 千都世
菅原 千都世
そうだね。
『お兄ちゃん』が来てくれたら安心かも。
料理も上手だし

ムキになった俺が小声で言うと、千都世は笑った。


冗談だと捉えられているのが、悔しい。
菅原 千都世
菅原 千都世
あっ。
昨夜、日付が変わった後にチャットでは伝えたけど……。
誕生日、おめでとう
番場 悠一郎
番場 悠一郎
……ありがとう
菅原 千都世
菅原 千都世
十七歳か。
四歳から知ってるから、なんか変な感じ

信頼してもらえている反面で、まだ完全に男としては見てもらえていない。


どうやっても、千都世にとって俺は、『弟』なのだ。
番場 悠一郎
番場 悠一郎
(やっぱり、告白するしか……ないか)

今すぐ、言ってしまいたい気持ちもあるけれど、きっとうまくいかない。


伝えるタイミングは、クリスマスがいいだろう。


それまでに、気持ちも準備しなければ。
番場 悠一郎
番場 悠一郎
(臆病者は、次こそ克服する……!)

俺は決意を新たに、穏やかに笑う千都世の顔を見つめていた。


【第6話へつづく】

プリ小説オーディオドラマ