第2話

超鈍感ゆえの弊害
菅原 千都世
菅原 千都世
年上みたいにって……悠一郎が私のお兄ちゃんになるってこと?
番場 悠一郎
番場 悠一郎
……うん

予想外のお願いに、私はぽかんとした。


私の言い方が悪かったのだけれど、例えば「靴がほしい」とか、「参考書を譲ってほしい」とか、そういうプレゼントをねだられるものとばかり思っていたのだ。
菅原 千都世
菅原 千都世
ふふっ……なにそれ。
かわいい

弟扱いをやめてほしかったのだろうか。


ついつい笑ってしまうと、悠一郎は首から上を真っ赤にした。
番場 悠一郎
番場 悠一郎
か、かわいいって言うなって……!
菅原 千都世
菅原 千都世
ごめんごめん。
じゃあ、一週間だけ、私の『お兄ちゃん』になってもらおうかな

期間限定にしたのは、悠一郎を兄のような扱いするのにも、限界があると感じたから。
番場 悠一郎
番場 悠一郎
一週間……。
分かった、そうしよう
菅原 千都世
菅原 千都世
うん。
じゃあ、よろしくね。
『お兄ちゃん』?

悠一郎も了承したので、明日から一週間、私たちの立場は逆転することになった。
菅原 千都世
菅原 千都世
(お願いでこんなこと言うくらいだから、弟扱いがよっぽど嫌だったのかな?)

長い間ずっと、姉弟のように過ごしてきたから、それが自然だと思っていたのに。
番場家・母
番場家・母
悠一郎、ケーキを取り分けるの手伝って
番場 悠一郎
番場 悠一郎
あ、うん

おばさんに呼ばれた悠一郎の背中を、なんとなく見つめてしまう。
菅原 千都世
菅原 千都世
(確かに、もう『子ども』って感じじゃない……)

高校生は、子どもから大人への過渡期だ。


身長は高く、声は低くなって、肩幅も手の大きさも私とは全然違う。

菅原 千都世
菅原 千都世
(そっか、大人に近づいてるんだ。だったら、余計に子どもっぽく思われるのは嫌だよね)

お兄ちゃんとしての期間は終わっても、今度から弟扱いはやめよう。


内心反省して、おじさんの買ってきてくれたケーキを、みんなで分け合って食べた。



***



翌日は高校の終業式。
菅原 千都世
菅原 千都世
(せっかく午前中で終わったし、悠一郎とランチでもしようかな)

お願いを聞くとは言ったものの、今年の誕生日は今日しかないのだから、お祝いくらいはしてあげたい。


そんな思いで、私は悠一郎のクラスを訪ねた。
菅原 千都世
菅原 千都世
悠一郎……じゃなくて。
番場ばんばくん、いるかな?

入り口から呼びかけると、一瞬、教室内が静かになる。


どうやら、悠一郎はいないようだ。
クラスメイト
クラスメイト
悠一郎だったら、また女子に呼ばれてますよ

そう教えてくれたのは、よく悠一郎と一緒にいる男の子だった。
菅原 千都世
菅原 千都世
女子に、呼ばれて……?
クラスメイト
クラスメイト
多分、クリスマスの誘いです。
中学の時から毎年恒例で。
もうすぐ戻ってくると思いますけど
菅原 千都世
菅原 千都世
そ、そうなんだ!
教えてくれてありがとう

礼を言って、そのクラスから離れてみたものの。
菅原 千都世
菅原 千都世
(なんか、嫌だな……)

すごく、もやっとした。


よく分からない感情が、胸の奥に滞留している。


悠一郎は、頻繁に女子から告白されているらしい。


なにも、知らなかった。


悠一郎がモテることも、彼女の有無も、好きな人がいるかどうかも。


モヤモヤの正体は、私が悠一郎の恋愛事情に興味を持とうとしていなかったことへの後悔か。


それとも、悠一郎が私にこういうことを話してくれなかったからか。
菅原 千都世
菅原 千都世
なんだろう、これ……?

無事にランチに誘えたとしても、悠一郎と普通に会話ができるだろうか。


そんな疑問や不安を抱えたまま、私はふらふらと悠一郎を捜しに行った。


【第3話へつづく】