あのクリスマスデートの日から、数日。
思い返すほどに、ローラーコースターのような一日だったと実感する。
世の中はあっという間に年末になり、俺は家の大掃除の手伝いをしていた。
千都世からは、一向に返事がない。
あの反応を見る限り、可能性は低そうだ。
窓を拭きながら、溜め息が零れる。
こんな状況になることを恐れていたからこそ、告白できなかったのに。
結果として振られる寸前なのだから、情けなくて笑えてしまう。
自画自賛くらいしておかないと、気持ちがもたない。
千都世が俺に選んでくれた本は、最近発売されたばかりの本格的なファンタジーだった。
気になってはいたけれど、まだ読んでいなかったし、千都世が俺の好みを分かってくれていることがなによりも嬉しかった。
何度目かになる溜め息をついた後、ピカピカになった窓に、母の姿が映り込む。
プラスチックの密閉容器が三つ入った手提げを、母が俺に差し出す。
両家恒例の、お裾分けだ。
普段なら母が直接持って行くのに、これを俺に頼むということは、事情を見抜いているらしい。
クリスマスに千都世と出掛けたことも、なぜかバレていたし。
母が、せっかく会う口実を作ってくれたのだ。
遠慮する理由はないと、俺は手提げを受け取って、隣の家を訪ねた。
***
チャイムを鳴らして数秒後、バタバタと足音が聞こえ、出てきたのは千都世だった。
予想だけれど、彼女もまた、両親に背中を押されて出てきたのだろう。
笑っているのに、ばつの悪そうな顔をしている。
まだ一週間の約束は残っている。
千都世に悪いとは思っているけれど、ここでケリをつけておきたかった。
彼女は頷き、一度手提げを家の中に持って行くと、こちらへ戻ってきた。
近所を並んで歩きながら、俺はどうにか話題を振った。
千都世は顔を上げると、みるみるうちに泣きそうな顔になっていく。
千都世は首を横に振り、道のど真ん中で、急に抱きついてきた。
何が起こっているのか、分からない。
両手のやり場を失って、俺は硬直していた。
千都世はすすり泣きながら、腕に力を込める。
まだ、希望は残っていたらしい。
目の前が真っ暗になったとはよく言うけれど、その逆を味わうことになるとは、思ってもみなかった。
【最終話へつづく】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。