二日後、クリスマス当日。
悠一郎と出掛ける予定だと母親に話したところ、「それはデートね!」と囃し立てられてしまった。
うっすらと、そうじゃないかとは思っていたけれど、悠一郎はどんなつもりだったのだろう。
支度を終えて、家の前に出たところで、時間ぴったりに悠一郎が迎えに来た。
悠一郎の私服くらい見慣れているはずなのに、直視するのが難しい。
こんなに大きくなってから、ふたりきりで出掛けるのは初めてのこと。
加えて、これがデートだなんて思ったら、どうしたらいいのか分からない。
***
電車を降りて到着した街は、クリスマス一色だ。
どこもかしこも人が多く、街路樹にはカラフルな電飾が施され、あちこちから楽しげな定番曲が聞こえてくる。
イルミネーションに気を取られてよそ見をした時、反対側から歩いてきた人にぶつかってしまった。
バランスを崩して車道側に倒れかけた私を、誰かの腕が支えた。
腕と腰をがっちりと捉まえられている。
もしかしなくても、これは……。
やっぱり悠一郎だった。
電車の中でもそうだったけれど、悠一郎は自然に私を助けて守ってくれる。
今までなら、年上の私の方が、悠一郎を守って導いてあげないといけないと思っていたのに。
近所にいる幼馴染みの『姉』としてではなく、ひとりの女性として、大事にしてくれているように感じる。
鼓膜まで、心音が響いている。
悠一郎は、この二日間でたくさん下調べをしてくれたようで、「次はこっち」と私を引っ張ってくれた。
昼食の場所は、行列のできる人気のカフェ。
食後には、クリスマス限定ケーキが出てきたし、喜んで写真を撮る私を、悠一郎は笑いながら見ていた。
その次は、クリスマスの特別展示がされている美術館を訪問。
普段とは違う雰囲気の中、外の喧噪を少しの間忘れて楽しめた。
そして、夕方にさしかかってきた頃に、ショッピングモールへ。
悠一郎の案内で行くのは初めての所ばかりで楽しくて、私も自然と笑っていた。
母の言っていたことを思い出す。
端から見たら、私たちは恋人同士に見えるのだろうか。
そうやって考え事をしていたら、またも人にぶつかってしまった。
今度は悠一郎の胸に倒れこんでしまい、私は慌てて離れた。
大きな手のひらが、目の前に差し出された。
昔は、よく手を繋いで幼稚園の行き帰りをしていたけれど、今は意味合いが変わってくる。
繋いでみたい——でも、恥ずかしい。
そんな感情の天秤をぐらぐらさせつつ、悠一郎の顔と手を何度も往復して見つめた。
悠一郎も、唇を歪めているところを見ると、引っ込みがつかなくなってしまっているのかもしれない。
私は思い切って悠一郎の手を取った。
悠一郎は、わずかに体を跳ねさせたけれど、すぐに優しく握り返してくれる。
記憶していた手とは全く違う、大きくて温かな手。
歩き出したはいいものの、ぎこちなさが残る。
女の子にモテるのなら、デートだってしたことがあるかもしれない。
単なる好奇心と話題作りで、私はそう聞いてしまった。
【第7話へつづく】
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!