悠一郎の心臓が、大きく鳴っている。
彼の胸に頭をくっつけているから、聞こえて当然と言えば当然なのだけれど。
その振動まで伝わってくるのは、きっと、悠一郎が私を想ってくれているからだ。
私は滲んだ涙を拭って、呼吸を整える。
そう呟くと、悠一郎の体が分かりやすくびくっと跳ねた。
動揺した声が聞こえて、私は顔を上げた。
こういう反応は、やっぱり年下だなあと思ってしまうのは、言わないでおく。
もう、誤魔化すのはやめだ。
悠一郎が直球で投げてくれた想いには、私も真剣に返さなければならない。
さっきまで空中に浮いていた悠一郎の手が、私の背中に回る。
やっと、抱きしめ返してくれた。
その力の強さに、彼はもう弟なんかじゃないと実感する。
ひとりの男の人で、私の好きな人。
ずっと一緒に居てほしいと、思える人。
悠一郎の表情が気になるけれど、密着しているせいで見ることができない。
それでも、今はこっちの方が幸せだと思える。
悠一郎が女の子から人気があることに、モヤモヤしていた、あの感情。
プレゼントでもらった本には、そういう複雑な思いを持つ女性の心情が描かれていた。
今まで読んできた本の中にもそういう描写はあったはずなのに、私が自ら体験していなかったから、分からなかっただけ。
嫉妬は、独占欲の表れ――その人を愛しいと思うからこそ生まれる感情。
自分の想いを、やっと確信することができた。
悠一郎だって、シャイで引っ込み思案だから、なかなか告白できなかったはずなのに。
そんな弱点を克服してでも、私に伝えてくれたことを、愛しいと思う。
顔を上げて、問いかける。
悠一郎は、耳まで真っ赤だった。
照れくさそうに、そう呟く声が聞こえる。
答えは分かりきっているのに、こんな質問をしてしまうのは、相手が悠一郎だから。
悠一郎は苦笑いを浮かべた。
素直にそう伝えると、悠一郎は顔を手で覆った。
今度は、私が耳まで真っ赤にする番だった。
しばしの沈黙の後、私たちは大きく吹き出した。
幼馴染みは、今日をもって卒業します。
【完】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。