夢の整理をして、しばらく一人で色々考えたいところだが、あいにく今日はバイトの予定が入っている。
ぼーっとしていたせいで、バイトに遅刻しそうだ。
朝食を食べずに、駆け足で家を出た。
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「いらっしゃいませ。」
今日も偽りの笑顔で接客をする。
俺の笑顔を見て、頬を赤らめる女共。
…虫酸が走る。
俺の容姿しか知らないくせに、ほいほい連絡先なんか聞いてきやがって。
こう言いながらも、情報経路は多い方がいいと、連絡先を交換してしまう。
___俺は、いつになったらこの日常から抜け出せるんだろうか。
「あの…すみません。」
「…はい。」
「注文いいですか?」
またぼーっとしてしまった。
今日は早めに上がらせてもらおうかな。
「はい、ご注文ですね…どうぞ。」
声をかけてきた客を見ると、そこには、無造作な髪に皺だらけの服を着た…ボロボロの女がいた。
…女として終わってんな。
いくら情報経路を増やすって言っても、こんな女は…ごめんだ。
__にしても注文が遅いな。
「…あの、お客様?」
声をかけると、我に返ったようだった。
…何だこの女。
さっきから俺の顔ガン見なんだが。
「…僕の顔に、何かついていますか?」
見た目からしてやばそうだ。
早くオーダーを終わらせたい。
得意の愛想笑いをし、彼女に問いかけた。
すると、女はぽつりと言った。
「…可哀想な人ね。」
「…は?」
何なんだこいつ。
俺が可哀想だと?
何故、そんな哀れな物を見るような目で俺を見るんだ。
何なんだ。
やめろ。
見透かしたように俺を見るな。
「…ご注文は、どうなさいますか。」
落ち着け。冷静になれ。
そう自分に言い聞かせて、普段通り進めた。
…その後のことはよく覚えていない。
いつも通りの道を通って、いつも通り家に帰り、飯を食い、寝る支度をする。
_____ただ、胸の奥に残る微かな違和感と、苛立ちに見て見ぬふりをして、俺は今日も眠りについた。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!