第66話

〜四百六十五話〜
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2023/02/05 04:00
あなたは、緑谷家の長女として7月15日に双子の出久と共に生まれた


だが、彼女は前々から双子の出久の存在や母親の存在を知っていた
彼女には幼児期健忘というものが発症していた


幼児期健忘とは幼児期の記憶がなくなる症状のことである
一般に三歳以前の記憶であれば、記憶として残りにくい


だが、あなたは全てを覚えていた


彼女は父親の久によって普通ではない人間にされてしまった事
母体に特殊な薬を打ち込む事で産まれてくる子供は普通の人間とは異なってしまう


久は自分の娘が息子を日本最強の兵器にするために、引子の中にいる子供のうち、片方だけに薬を打ち込んだ
その薬を打ち込まれたのがあなただった


彼女は普通の人間とは異なった力を持ってしまい、彼女の母親、引子はそんな彼女を愛せなくなってしまった


そして、あなたが無個性だと分かった瞬間
彼女を愛せなくなった
元々の身体能力が普通の人間とはかけ離れている事+強力な個性があれば自分が手間をかけて育てただろう


だが、個性がなくただ身体能力だけが化け物じみたあなたを久と引子は愛せなくなった
個性が全ての個性社会


幼児期健忘が発症していた彼女は全てを悟った
自分は普通ではないのだと
自分は両親に愛されないのだと


これが、彼女の人生の歯車が狂い始めた始まりだった
いや、始まりに過ぎなかった
緑谷出久(幼少期)
『見て!
お母さんテストで70点とったんだよ!!』
緑谷引子
『わぁ、凄いわね!!』
(なまえ)
あなた
『母さん、私は100点をとったよ……!!』
緑谷引子
『……えぇ、そうね、凄いわね』
あなたが出久に続き、テストの答案を見せると引子は決まって出久をチラッと見てからあなたを褒めた


だが、出久がいないととたんに何も言わない


愛されないと分かっていてもあなたは努力した
勉強もスポーツも完璧だった
お手伝いを嫌だと言った言はなかった
我儘も言った事はなかった


愛してくれるように、愛されるように
笑顔の練習をした
子供らしい事をした
(なまえ)
あなた
『きっと、きっと、父さんも母さんも私を愛してくれるよ……大丈夫……大丈夫……』
あなたは毎晩自分に言い聞かせた
言い聞かせる事で自分を落ち着かせようとしていたのだ


二歳の頃から、No.2ヒーローのエンデヴァーに稽古をつけてもらっている
毎週金曜日にエンデヴァー宅に泊まり込み、朝早くから訓練をする


強くなれば父親は愛してくれる
弟を大切にすれば母親は愛してくれる


そう思う事で、あなたの心はスッと軽くなった


だが、彼女には一生かかっても癒せない大きな傷があった
まだ、彼女が産まれる前


以前ドクターが言っていたように彼女はオール・フォー・ワンに会っていた


そして、三歳の頃
少し遠出して出久と引子、そしてあなたの三人で隣町にある大きな公園に向かった
そして、その時彼女は出会った


路地裏で大人男性二人が向かい合っている
片方は腰が抜けて動けないようだった
そこで見たのだ、個性が奪われる瞬間を


あなたは今までに感じた事のない程の恐怖感に襲われた
今にも逃げ出したいが、腰が抜けてしまい歩き出せない


そこで、オール・フォー・ワンに見つかってしまった彼女は個性を奪われた・・・・・・・
彼女には個性社会が宿っていたのだ
だが、誰も気づかなかった


元々、彼女は身体能力が普通ではない事からあまり誰も気にしていない様子だった


それが、今、オール・フォー・ワンによって奪われてしまい彼女は正真正銘の無個性・・・になってしまった
(なまえ)
あなた
『私……出久と何が違うのかなぁ……』
大人びているとはいえ、まだ三歳の子供には現実を受け止めるには厳しすぎた


それから、あなたは12年間無個性として生活していた
愛してもらうために椚ヶ丘中学校に入学した
だが、その後にE組いきになってしまった


そして、そこで出会ったのだ
最悪な運命


シロはオール・フォー・ワンと繋がっていた
誘拐されたあなたはオール・フォー・ワンと12年ぶりに対面した
オール・フォー・ワン
これ・・は君に返すよ
僕には強すぎる』

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