あなたside
「えっと…晴美先輩…。」
私は疑問に思ったことを恐る恐る聞いてみる。
「何?」
「あの、彩はどこに行ったんでしょうか?」
晴美先輩は考え込んで私に言った。
「分からない…。朱音や愛奈でもわからないみたいだし。あの2人がわからない事は私も知らないなぁ。」
なんでだろう。とてつもなく悪い予感がする。
彩が連れていかれた先に何があるのか。
わからないけれど…。だがいいことが起きそうでは無い気がする。
「樹里ちゃん知らないよね?」
「分からないです。」
「利菜は?」
「知らない。…でも気になるよね。何してるのか。」
いたずら子がするような笑みを浮かべながら、利菜先輩は言った。
「彩にいろんな方法で問い詰めてみたけど、教えてくれなかったし…」
それを聞いた晴美先輩が止めに入る。
「え、待って待って、何したの?」
「聞きたい~?」
にま~、と笑みを浮かべる利菜先輩を見て「うん…、やっぱり大丈夫かな…。」と晴美先輩は断った。
病室を出ると時計は5時半を指していて、あと30分で夕飯の時間らしい。
せっかくだから今回は4人で食べようと言うことになった。
「じゃ、あなたの部屋の前集合ね。」
「すみません…。合わせてもらって。」
「大丈夫大丈夫!」
そう言って6時に私の部屋の前が集合場所になった。
なんだか少し申し訳ないなとも思ったが、場所把握できてはいないから少し助かった。
すると急に利菜先輩が立ち止まった。
何か考え事をしているような感じで目を閉じた。
「…愛奈…?」
瞼の裏に何かが見えるのだろうか?
少し顔を顰めている。
「…1番フィールドが小さい訓練場ってどれ?」
「え?…第3だと思うけど。」
利菜先輩の質問に晴美先輩が答える。
樹里さんもうなずいた。
「…。なんかさ、愛奈から、イメージが伝わってきてて。」
鼻で笑いながら利菜先輩は続ける。
「待って…
イメージ伝え方下手すぎる…w」
それでも険しい表情が変わらない。
そしてすぐに、はっと顔上げ、さぁっと顔を青くする。
「…やばいかも。
第3訓練場に何かあったみたい。」
そう言うとすぐに利菜先輩は走っていってしまった。
それにみんなも驚き…
「え、ちょ、利菜ぁ!」
その声に反応したのか、利菜先輩は少し振り返った。
あなたside
「私だけじゃ手に生えないかも!晴美達も来て!」
そう言われ、晴美先輩はものすごいスピードで利菜先輩の元へ向かっていった。
達?という事は私も…行ったほうがいいのかな?
でも、足手まといになるだけだし…。
そう迷っていると、樹里さんが声をかけてきた。
「一応、一緒に行こ。また何かあったら嫌だし…。」
それに私はうなずいてしまった。
すると急に樹里さんは私の腕を掴んで…。
「走るよ!」
迷ってる暇もなく、気づくとそのまま私は引っ張られていた。
そしてそのスピードと言ったら…速い。速過ぎる。
それだけでも十分早いのに、前にいた2人の先輩はどんどん遠ざかっている。
がむしゃらに走っていると、スピードをゆっくりと落とされた。
場所に着いたのか、そこで樹里さんは止まった。
私は膝に手をついて息が上がっているのに対し、樹里さんはちょっと息が上がっている程度だった。
息を上げながら顔を上げると、そこはCMなどで見た客席が周りにたくさん並んでいる場所に着いた。
地面は見えない。
利菜先輩は何かに向かってしゃべっていて下からも声が聞こえるため、誰かいるようだ。
息を整えつつ、樹里さんと一緒に手前まで行くと…。
そこには、さっきの病室にいた先生と愛奈先輩、朱音先輩、そして息を切らしながら横たわる彩の姿だった。
*・゜゚・*:.。..。.: *・゜゚・* :.。. .。.:*・゜゚・*
利菜side
第3訓練場の客席の扉を開けると、聞いたことない叫び声が聞こえてきた。
そしてその声に混じって愛奈と朱音の声も聞こえる。
すぐにら長い髪の人間が私の目の中に飛び込んできた。
背後からは誰かわからない。
…これだけは、感覚で分かる。
こいつが能力を使ってる。これは全くもって憶測だが、愛奈が危険信号を出しているのもそれが理由だろう。
気づかれないように近づき、そして…
「邪魔だから寝てて。」
頸に手を振り下ろし、気絶させた。
苦しんでいる彩が目に入り、私も叫んだ。
「やめて!」
さぁ、バディのピンチを助けようじゃないか。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!