第29話

連れ去り
22
2021/02/01 11:47

あなたside

「嫌だ!いやぁ!離せ、離せ離せ!」

声は彩がいた病室から聞こえてくる。
教室の扉を開けるとそこには

「あれ、夢仲先生…?」

紫色の髪の長い男性がそこにはいた。瞳も紫色。
中性的な顔立ちで一瞬、男性か女性か迷ってしまうほど、分からなかった。
そして問題はそれよりも…

「どうして彩はそんなに嫌っているんですか?」

ベッドの上でガタガタと震えて彩が夢仲先生と呼ばれた人を見ている。
怯えきっている彩の目はまるで、見つかってしまった獲物のよう。
さっきの彩の声が聞こえたのか他の先輩方もやってきた。

「嫌だなぁ…。僕は何もしていませんよ。」

声も中性的でおしとやかな声色。
そして、指をパチン、と鳴らした。
さっきまで怯えていた彩が一気に体の力が抜け、そのまま倒れ込んでしまった。

その姿を見て、その場にいた誰もが背筋を凍らせた。

「最鳥さんを少し借りますよ。」
「先生。」

背後から声が聞こえ、振り返ると、愛奈先輩がひるむ様子もなくまっすぐ彼の菫色の瞳を見ている。

「なんですか?長崎さん。」

にこり、と笑って愛奈先輩に聞いた。

「私が、彩を連れて行きます。
先生が彩のことを抱えて連れて行ったら、勘違いされかねませんからね。」

愛奈先輩も微笑み返す。

それよりも、彩が連れていかれて大丈夫なんだろうか。とてつもなく嫌な予感がする。
第一、彩はあれほど嫌がっていた。それを愛奈先輩が見ていないはずがない。
どうして、この人に加担するのだろうか。

「ありがとう。第3訓練場までお願いできるかい?」
「はい。」

愛奈先輩は彩を横抱きに抱えて、行ってしまった。

「先生。」

朱音先輩が今度は声を発した。

「…何をする気ですか?
彩があれほどまでに嫌がっているところなんて見たことがないです。」

すると、どこからか扇子を出し朱音先輩にむけた。

「久保田さん、
あなた方に理由を教える余地はありません。関係ありませんからね。

外に出れば能力者は社会的地位が低い…。
通常者の目の前でそんな大口叩いたら…、首が飛ぶでは済まされませんよ?

一応わかっているとは思いますが…、あの子は人類の希望であり、光。
それは自然能力を持つあなたも例外では無いですよ?」

朱音先輩は表情を崩さずそのまま見つめていた。
そんな先輩を見ているこの人は、手で口を隠しながらにこりと笑った。

その姿は私には恐怖にしか見えなかった。

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