花蓮&陽人 (3) 花蓮side
『次は〜○○〜○○ですご利用ありがとうございます__』
駅のアナウンスが騒音をかき消すように響き渡る
「今日も人多いねえ」
友達と一緒に朝からこの通勤ラッシュに挑戦を試みてみたものの、予想通り、背の小さな私はすぐにあっちやこっちに押される
「待って待って」
「手繋いで離れないで」
今日も変わらない一日
大学に入って1年目だから慣れないのかなぁ、
もう少ししたら慣れるかなぁ、
なんて朝からぼんやり考えるけど
絶対これは慣れるなんて出来ないな、と苦い笑みを溢す
友達がいなかったら今頃自分が車両内のどこにいるかも分からなかったかも
そう思うと、
友達の手をさっきよりも強く握った
「離さないってば」
心配しないで、
と笑う友達に自然と笑顔になる
ガタゴトと揺られて、
人が少なくなり自分たちが降りる駅にやっと着く
ふぅ、と一息つくと歳を1つとった気分になるから、毎朝一息ついている私はもうおばあちゃんなのかもしれない
「行こうか」
スカートを揺らしながら二人並んで歩き始める
その時、何を思ったのか、
はっきりと自分でも覚えてないけど勢いよく振り返った
「っ…………!!」
声にならないけど
すぐに言葉にならなかったけど
見間違えじゃないよね、
私の瞳にうつった姿、
ああ、私が、ずっと、会いたかった人
忘れたくても忘れられなかった人___
『ドアが閉まります__』
「あ、待ってっ……」
少し高さのあるヒールを音を鳴らして走らせ、慌てて声を発した
間にあうわけもなく、
ドアは閉まり電車はスピードをあげていく
「……陽人、」
久しぶりに口にした名前があまりにも無意識に出て、ハッと我にかえる
「花蓮〜?何してるの〜?」
「ごめんっ今行くよ〜」
少し離れた友達に大声で返事をすると、
さっきまでそこにあった電車の場所へ目を向けた
少し見つめてから息を小さく漏らし、
笑顔で友達の元へ向かった
「____また、会える日まで、」
「ん?何か言った?」
「何も言ってないよ」
隣にいる友達にも聞こえないくらいに小さな声で呟いた、あの日と同じ言葉
あの時より笑顔で言えてる気がする
それは、あの時…
陽人と目があった気がするからかもしれない、
もう少し大人っぽくなって今度はこっちが惚れさせてみせようかな
太陽の下で照らされる笑顔は
まだ何年か先かもしれないけど、
その時はもっと、
笑顔になれるといいな
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!