第15話

(1)「惜しからざりし」
43
2018/02/12 10:29
実依&龍 (1) 実依side


「っ…………いたっ……」

しびれるほど痛い膝や腕の痣を見ながら私は尻もちをついた

「だっさ」「つまんな」「シネよ」

頭が痛くてこの人たちが何言ってるのかも耳に入って来ない

「てめぇなんとか言ったらどうなの?」

目の前にいる彼女は、半笑いで強く私に言い放った

いつから、なんで、
こうなったかなんてそんなもの私はもう忘れたしこの人達も覚えてないんだろう

ただつまらない日常に刺激が欲しかっただけ、

そのために私は、今4人の女の子に囲まれて血を滲ませて心を痛めている

「…ごめんね」

へらっと笑うことしかできない、
……無力だなあ


もう、でも、そろそろ、ごめんね、…限界


そんな私の唯一の楽しみは、

「あ、龍くん?」

SNSで知り合った“龍くん”との毎日のようにする電話だった

優しい声で何を話しても楽しくて
私が普段できないことをたくさん話してくれる

「龍くん、確か近くに住んでるんだよね?」

私は明日、

______自殺する

「おう、そうだと思うけどどうした?」
「明日……ちょっと会えない?」

っ………言った、


最後に貴方に会いたい、

会って感謝を伝えて、

最後笑顔で終われれば死んでも後悔ない

この命がなくなっても、私は…

「うん、大丈夫」

貴方の電話越しの優しさは、私の命の源でした


「ねぇ~今日もゲーセン行くっしょ~?」

ぐっと息を飲んで、放課後が始まる

「あ、あの、きょ…今日はごめん、あの、どうしても外せない用事があるのっ…」

貴方に出会えて、私は少し強く生きられるようになったかな


「…は?初めてだねぇそんな口応え」
「どの口が言ってんの?」
「なに自分が何言ってんのか分かってる?」
「こんなクズと仲良くしてやってるこっちの身にもなれよ」

冷たい目で見下されて
1人で震えながら立ち向かっても、
結局その力にねじ伏せられる

…分かってるよ

理解できないとか、そこまで馬鹿じゃないよ

____それからどれだけ時間が経ったかな


「今日はもういいや飽きたし」「また明日ね~」「ばいば~い」

起き上がろうとしても痛みが体中に響く

紫に染まった痣が足や腕や体のあちらこちらにちらかっている

唇には血が滲み、
吐き気がして視界がぐらぐらして立つのがやっとだったけど

それでも龍くんに会いに行くために、
痣が見えないよう隠した

慣れないメイクをして遅めに設定した待ち合わせ時間に着くよう、必死に重い体を動かした


「…りゅ、龍くんですか?」

背がすらっと高く
想像以上にかっこよくて
髪もさらさらで…
話しかけると男性は優しそうな笑顔をこぼした


「あ、もしかして君?」

こくこくと頷くと私の手をとった

「ずっと、会いたかったんだよ!
今日はありがとう」


……胸が、痛かった

「こ、こちらこそいつも楽しい話をありがとう」

たった30分、
ベンチに座って話をする


久々に外で笑った、
本当に楽しくてこのまま時間が止まればいいって…どんなに願っても


そんなの、叶わないのにね

「じゃあごめんね今日はありがとう」

さよなら、という言葉が言えない

離れたくない幸せなこの時間が続いてほしい

伝えたいことは伝えた
感謝も言えた
もう悔いはない………はずなのに、


それなのに…


「また会おうね今日も電話する?」

そんなに優しく温かく笑いかけられたら、
嬉しくて離れたくなくて、
もっと生きたくて貪欲になって、

涙が出そうになる

「あっれーここでなにやってんの?」

突然後ろから声が聞こえて背筋が凍った

振り返らなくても誰の声だかすぐ分かった



「うっそ〜今日外せない用事って男だったの?」「まじ?こいつに男なんてありえないって〜」「なに遊ばれてんの?かわいそ〜」

龍くんの前で、ほんとに、やめてよ、やめて


「お前ら、友達…?」

ち、ちがっ…


「そうだよ〜お友達だよね〜いつも一緒だもんね」

最悪だ悩んでないで、さっさと自殺すればよかった
私に幸せなんてこないのだから

「ほんと私たちより男とるなんてクズ〜」「明日はゲーセンだからね〜」「いつも通り奢りね〜」


龍くんに、聞かれたく、ないっ……

「え、いつも奢ってるの?」

やめて、やめて、もう帰ろうよ

「そうなの〜いつも奢ってもらってるし〜いつも私達のおもちゃになってくれるの〜」「とっても優しいから〜どんな痛い思いしても私達のためなら我慢してくれるの〜」

そう言ってふいに私の靴下をおろした

「ちょ、ちょっとまっ…いやっ」

痛々しい痣が、龍くんに見られた

「よかったら一緒に遊ばない〜?」「そうだよ〜今ならお手頃だよ〜!何しても大丈夫この子いわないし〜」

終わったな、って思って俯いた時

「ばっかじゃねぇの」

そっと引き寄せられた


「お前らこいつと同じ立場になったら耐えられるのかよ!
どんな気持ちで過ごしてきたか分かんないだろ!
そういうことしか出来ないで人の上に立って友達の意味もとり間違えて何が大丈夫だ!
…こんなに震えて怯えて何が友達だ!」

涙は、もう、止まらなかった

「な、なによ…」

誰も見てくれなくて
助けてなんてくれなくて

こんな人生なら早いところ終わらせようと思っていたのに

「大丈夫…じゃないよな、ごめんな気づけなくて」

「龍くんが謝ることじゃないよ、龍くんがいたから私は毎日生きられたの、言い返してくれて嬉しかった本当にありがとう」


「これからは我慢すんな全部全部俺に言え、全部受け止める
絶対助けに行くから独りになるな」

生きていてよかったって初めて思った
思える時がくるなんて思わなかった

「俺が、お前の毎日幸せにしてやるから、だから下手しても死ぬなよ」

心を見透かされた気がした


…ああ敵わないなあ

死ぬつもりだったのに
生きたいって思わせられるなんて

__貴方は私の救世主だよ

どんな辛くても貴方がいる限り私は生きていく

死にたいなんて、もう思えない

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