「待ってるぞ」
待ってるったって、お前はいつからそんなにギリギリ見えるところにいるんだよ。必死で追いかける凡人の身にもなれや。
「ゴメンな」
そんな、今更謝らんといて。もう遅いねん。その言い回しが耳に響く前に手が届かなくなるほどどこか遠くに行ってくれないかな。
「行ってくる」
あぁ。無理だ。お前に置いてかれたくない。お前に見捨てられた無い。お前に呆れられたくない。お前に残念がられたくない。お前に面倒をかけたくない。お前を悲しませたくない。全部自己中すぎる。
「トン氏」
辞めてくれ。そんな声で、そんな顔で、俺の名前を呼ぶな。もうお前なんか見たく
「こっちを向いてくれ」
乱れた茶髪の間からのぞき込むようにふっと彼の赤みがかった目を見る。
やだよ。こんなエンディング。
「…なんだよグルッペン」
いつもより少し掠れた声を出す。
「…俺を許してくれ」
ふわりと彼は泣きそうな顔で笑う。
こんな、こんな気持ちばっか残して言いって。大嫌いだ。いや、ごめん。たぶんちゃうわ。本当はお前の悲しむ顔が1番見たない。
「…俺は大丈夫や。だからお前はお前のしたいことしてきな」
本当のことを言えるほど弱くも強くもない凡人やから。お前俺のいない所で好きなことして勝手に幸せになってくれ。頼むから。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!