第42話

テレタビ 堕落
421
2020/11/23 11:44
空が暮れ始め、淡い夕日が指す部屋にカタカタとキーボードの音と時折それが止まってはまた動く音が静かに響く。

「ん、ふぅ…」

やっと仕事が終わり自分の座る席に体重をかけながら思い切り背伸びをしてもう冷え切ってしまったコーヒーを口に含む。
美味しないな、とは思うものの若干中毒に中毒になるなら彼の吸うタバコよりこっちの方が健康にいいな、と自分なりに思う。
そんなことを考えてるとその思考に呼ばれたのかがちゃんと扉が開き扉のそのからは酷い有様の鬱だった。
顔は真っ白で目は真っ赤に腫れていていつもから彼が弄られながらもきちっと着こなすスーツはしわくちゃになっていた。

「っえ…大先生…?」

ガタンという音がするのも気にせずに彼の元に駆け寄ると彼は先程まで泣いてたのか気丈な素振りを見せようと笑おうとする…が呆気なく心配して彼は壁に寄りかかって深呼吸をしてから顔を上げる。
ひっどい顔やな。

「…ごめんなぁロボロ」

彼は泣きそうな顔をして笑ってこちらを見上げるのでなんともしれぬ切なさが胸をし見つけるので意図的に優しい顔を作る。

「…何があったんや」

そう言うと彼が泣かないことを今まで支えていた糸がぷっつりと切れて彼の目からはぽろぽろと宝石のような涙が頬と地面を濡らす。

「…うッ…ぐすッ…」

なんにもこたえずただ泣き続ける彼の頭を撫でながこんなに自分に心を許してくれて彼が泣いてくれるのは自分にしかいないという優越感に浸る。

「ゆっくりでええからな…」

その言葉とは裏腹にもう言わなくていいとすら思う。ずっと溜め込んでもっと俺に頼ったらええんや、隠せてるつもりでも隠しきれてない辛さでもっと俺に頼れぼええのに。
そんな思考を回せば彼は眼鏡をとりぽろぽろと流れる涙をふいてからこちらを見上げる。

「あの…ね…」

あぁ、言うんか。
まぁええよ、それでも。お前がしたいようにしたら俺ははっぴーやからね。
いや、そんなことはないはずやろ、という思考を消し飛ばして耳を傾ける。

「…俺…司令官やん…」

この軍に来た頃から彼がついてる役職に対して彼は一切不満など持ってない…ように見えた。でもその裏腹ではなんか色々ある…と買収した彼の部下から言われた時は心底耳を疑った。
前線でもないのに大先生、お前はメンタルが削れるのか…と。
あぁでも今となってみればそれすら都合が良い事でしかない。

「…ん…せやね…」

「…俺さ…前に…ガバって…司令…ミスって…」

これから先の言葉はどうなるかはちゃんと知ってる。だってわざとミスをするようにしくんだからな。わざと違う資料渡してミスを犯すようにしたからな。

「…おん、それでどうしたんや…」

そう聞けば彼は短く息を吐き出しながら顔を真っ青にして体温が低いのか白い息を吐き出して言う。

「…俺…の指示で…50人は死んだ…」

知ってんで。内心つぶやく。お前本当は無能やないもんな。実は死ぬほど手際良いし手先は器用やし頭の回転も早いから自分を無能だと信じ込ませるの大変やったで?

「嘘、やろ…」

「…ロボロ引いたやろさん」

なわけない。この思考停止して全部仕組まれたとも気づかない大先生に引くわけないやんけ。

「引いてなんか…!」

「…俺…そいつらの名前も知らんの…なのに俺が!俺が殺したから!」

彼は綺麗な丸っこい瞳を小さな点のように凝縮させながらぽたぽたと涙を零して叫ぶ。

「あんな?それはちゃうよ大先生。お前やなくてお前の言葉が殺したんや」

せめての原状回復。それを狙おうとして言った言葉に彼は顔を上げる。

「ぇ…?…僕の…言葉…ッ…」

自分のしたことに気づいた途端彼は自分の喉に触れる。

「大丈夫か…?」

それに対して彼は何かを応えようとして口を開けるが音は出ない。…え。待ってどういうことや。そう思考停止している間に彼は震える手でメモ帳を抜き出して言葉を書出す。

『しゃべれない』

あぁでも耳は聞こえるよな。ならええやん。

「…そうか、でも大先生…人を殺してしまうような言葉なんていらんよな」

彼の頭を優しく撫でながら言うと彼は少ししてから頷いてまたメモ帳に言葉を書く。

『ロボロはやさしいな』

…ちゃうよ、そんな綺麗なもんやなくて俺はお前に優しいだけや。

「んふ、ありがとな大先生」

あぁ、そうやって慈しむ目で見つめられるだけで心地いい。…これがずっと続くならお前は一生喋らなくてええんやで。

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