第37話

若緑色 聞きたくないや(軍パロ注意)
360
2020/11/07 11:55
『皆様は死にたいと思ったことはありますか?』

鼻にかかった声をしてサングラスをかけた男が民衆に話すかのように両手を広げながら話すが観客席にいるのは…私一人だ。瞬時にこれは夢だと理解する。それもかなり悪趣味な夢。

『死にたいと思うのは人間にしか存在しない感情です。死にたいと思うのは生きたいと思う2倍の頻度で訪れますが純化された死にたいはそうそうありません』

何言ってるんだ。日本語を喋れ。ステージのライトの下で手を軽く振りながら喋る男に大して言おうとして口を開けようとするがのりか何かでくっついてるのかまるっきり唇は離れてくれない。そうすると目の前の男の存在はぶれて自分の顔をギリギリまで近づく。

『死にたいと口に出して死ねない弱虫が』

吐き捨てられるように言われ恐怖で過呼吸になる脳ミソと小さく震える眼球の中の黒い点を見つめては男は満足そうにして両の手を叩けば空間はぐにゃりと曲げられて唐突に意識が遠のく気する中彼の…いや、自分の声が耳に届く。

『死んだら?』

♢♢♢

寝ている時は結んでいない茶色の長く細い髪の束が重なってる髪が冷汗で額に張り付いたまま清潔な白いシーツを床に蹴飛ばしながら飛び起き、ぜぇぜえと息を切らすしている自分を細く伸びている女のように細い指でぎゅっと胸あたりの服を掴む。
何度この夢を見たのかな…寝巻きのまま這い出でるようにしてベッドから出ると部屋未だに暗く時計を見ると朝5時だった。
朝から憂鬱な気分になってしまい少し溜息をつきながら顔を洗うため洗面所とぼとぼと足を運ぶ。
鏡の前で髪をぐしゃりと髪を目からかきあげて鏡を覗くと顔は余りにもにも酷い有様だった。
元は若緑色だった目は疲労のためか影がかっていて織部色に変色して顔全体はやけに色白で西洋の人形じみた印象を与えるが、それを唯一阻害するのが目の下の桑の実色のクマである。
ため息をついて秋の朝のせいか少し冷たい水の栓を少し捻ってちょろちょろと水を出す。
手に救えば水面には鏡から反射した光で僅かに輝いてそれに顔と睫毛を濡らして再び顔を上げると涙が睫毛をつかんで離さないかのようにぽたぽたと涙のような水道水が流れるので洗面所に置いてある白い感触のいいタオルを手に取って顔にぼふっと当て乾かした。
そしてタオルを元の場所に戻してクローゼットに向かい神父のような服装にも見える深緑の服を身につけ、陽光に何時間も当たってないせいか冷たい木のテーブルを撫でて昔今は紅茶好きの男に教わったやり方で珈琲を作り中にはどぼどぼと角砂糖を3個ほど入れて作業机で少しほろ苦さを殴り飛ばすような甘さを昨晩から何も食べていない胃袋に放り込む。
だが煩雑に並べられた書類をため息をしては見つつ珈琲をテーブルの片隅においてシンプルなフォントで打たれた文字をパラポラと見つめて途中途中でカリカリと昨年貰った黒色のインクが出る万年筆で修正を入れてはしばし筆を止めて部屋の隅に置いてある本を手に取ってはまた席に戻り万年筆を紙の上を滑るかのよううごかす。
そして永遠にも感じられる朝食を取れる時間になるまで何杯もの珈琲を入れ直しながらひたすら書類と格闘しながら時間を待つ。
ピリリ。
自分の腕にまきつけた旧式の時計のなる音で集中して何も聞こえてない、いわゆるひとつの覚醒状態を解いて時間を見れば朝の九時を指している。
急いで時計のアラームを止めて疲労の溜まった脳ミソから絞り出したようなため息をついて部屋の扉を開け赤いカーペットが敷かれた廊下にあたる陽光に目を細めながら食堂にやや足を急がせる。
こんな遅い時刻になぜ昼食になったのかと言うと毎回毎回、誰かとは言わないが頭がおかしいほど朝早くご飯を食べたり逆に遅すぎる時間にご飯を食べたりまたは全く食べなかったりして倒れる人が出てきたので毎回この時間…つまり9時から9時半までに食堂に来て食べる手筈になっている。
まぁ幹部に限った話だが…と軽く思い廊下を通る一般兵にぺこりぺこりと愛想よく頭を下げながら三回の自室から遠く離れた1回にある食堂に向かって足を急がせる。

「あ、オスマンじゃないか」

独特なバリトンボイスとそれに伴いとてとてと子供のような軽い足跡が耳に響く。
振り返ると真っ黒に染め上げられボタンを1個もしてないコートと中身からチラチラ見え隠れするすらっとした黒ズボンと真っ白なワイシャツをみにつけニコニコと口角を上げてまるで何年も会ってない共に再開したかのように思い切り笑顔で隣まで歩いてくる。

「あ、グルッペン…おはよう」

営業用の嫌味の少ないはずの笑顔で目を細めて笑えば彼はそちら方面に疎いのか案外軽く騙されて優しく微笑みながら共に食堂まで彼に合わせたせいか少しペースダウンしながらゆったりと朝の優しい歩けば彼は少しだけ遠慮したように口を開く。

「…オスマン最近寝てるか?」

突然の質問に少しだけ目を見開いてはいつも通り薄く空けるのにとどまって曇りなき笑顔を浮かべるようにして口角を上げる。

「寝てるで?…しんぱいしなくていいよぉ?」

ふんわりと言うと彼は安心したかのように肩をなで下ろしては1回に向かう階段を1個飛ばしでかけ下りる。
彼は気づいてないがきっとこういう事をするから子供っぽいとか言われてしまうのだと思いクスリと口に手を当てて手摺に手を当てながらコツコツと足音を立て何か硬い素材で作られた階段を下りる。
彼の後に続き食堂の扉を開けると要項が天窓からさして和気あいあいとした話し声が何個かのテーブルから溢れているのでなるべく静かそうな鬱、トントンの座っているテーブルを見つけ朝ごはん用のコーヒーをとる手を脳内で叩いて紅茶とふっくらとしたバターをふんだんに塗りたくったトーストを2枚皿の上に乗せて鬱とトントンが囲むように座ってるテーブルに着く。

「おはよぉ〜マンちゃん」

1番早く気づいたのか鬱がへらへらとした笑いを浮かべながらゆるりてとしたあだなで呼ばれるもんだからつい頬が緩んで同じような調子で返す。

「だいせんせ〜おはようなぁ」

ふんわりと言い返せば隣に座るトントンがすこし鬱陶しそうに私たちのことを見ては珈琲を口に当てて啜るので自分も紅茶を両手でもってごくごくと飲めばどこかふんわりとした牛乳の味とまろやかに紅茶の味が混ざってなんとも言えない美味しさが喉を撫でる中トントンはコップをコトンとテーブルに下ろして重々しくため息をついて私達…つまり私と鬱に呼びかけるように声をかける。

「お前ら…書類終わっとるか?」

先ほどの4時間かけてやっと終わらせた書類のことを思い出して遠慮がちに頷いてから鬱を見ると予想通り引きつった笑顔を浮かべてトントンの方から目を逸らしている。

「いやー?あのー」

必死に目を泳がせて言い訳を考えてる彼を横目に急いで朝食を口に詰め込む。トントンが怒ってしまったら食事もできないとか思ってると予想通りトントンはゆらゆらと剣でも抜きそうな剣呑な雰囲気で立ち上がり鬱の手首をニッコリとしながら掴む。

「無能すぎひん…?ちゃんと仕事しろや!」

怒声が食堂に鳴り響き小さな声で隣のテーブルに座っていたエーミールが、

「ひえっ…」

と声を漏らす音とゾムが全く気に求めない様子で朝から肉を食べるという些かコミカルな様子を横目に見つめる。

「と、とんち?そんなに怒らんといて…」

怯え切った表情で鬱が言うとさすがに心に来たのかトントンがぼふっと言う音を立てて椅子に座り直して屋内でも着てるマフラーを調節してぼそっと言う。

「今日5時まで締め切らなかったら仕事4倍な…」

思わず自分まで自分まで冷汗が垂れるほどの仕事量。先程の自身の仕事量は鬱のと比べるとトントンの配慮で少ないから鬱の2倍ぐらい…そう計算してると思わず頭の中で目眩がする。
そんな仕事量をこなす時間なんて余ってないし…鬼じゃないか…そんな思考に辿り着くと隣の鬱の口からは言葉がぼそっとこぼれる。

「もうやらぁ…死にたぁい」

『死ねば?』

恐らくネタだったのだろう。
だがそれに重なるように聞こえた空耳に一瞬思わず動作が不自然なほど空で固まる。
急いでまた体を動かそうとするがどうしても体が動かなくてこちらを向いた鬱先生が血相を変えて肩をとんとんと叩く。

「マ、マンちゃん…?大丈夫?」

顔を覗き込もうとする彼に気づいて急いで立ち上がり自分が得意な頭脳労働で脳をフル回転させていいわけを絞り出す。

「だ、大丈夫やで!少しだけ書類あるから片付けて来るわ」

不自然なほど明るい笑顔になってしまったが仕方が無いので駆け足で食堂からでる。
とりあえず自室に向かって駆け足になる。
何をすればいいかわからずにドアの前で立ち止まってからため息をついてドアの鍵を開けて中に入ってどくどくとなる心臓を押さえつけてベッドに倒れ込む。
我ながらキツかったなとか思って頭を枕に埋めて出てこようとする涙を無理やり涙袋に押し込む。
吐き気がする内蔵を抱えるようにベッドの上で丸くなる。
あぁなんでこんなに苦しい。

『お前って生きてる意味あるの』

いつからあったか分からない影のような声に指の先でも入れたら全身が引きずり込まれて死にたくなるような気持ちになってしまう。
こんなんじゃ心がどんどん腐っていくと分かりながらも自分からは逃げれない。

『お前よりすごいやつは沢山いるし外交だってもっと上手い人おるしもっとおもろいやつとか沢山いるやん』

どんどん自分の声が頭の中で反芻して気が狂うような声に耳を塞ぐ。
その時部屋の扉にノック音がこんこんと聞こえる。
ふらつく足で何とかドアに出て扉を開けるとグルッペンがやけに大人びた顔をして立っていた。

「…グルッペンじゃん。どうした」

ドアをギリギリ見えるように開けたままにして彼の顔を見ては微笑めば彼もぎごちなく笑う。
ほんと愛想笑い下手やなぁ。

「いや…書類受け取りに来た」

仕方が無いのでドアを開けて中に彼を入れると彼は早速キョロキョロとあたりを見回して不思議そうに木で統一された家具や辞書ばかり並べられた本棚を見る。

「あ、資料はそこやで」

机の上に置いてある紙の束を指すと彼は頷いてからこちらを向く。

「全部終わったか?」

頷いて腕を背中の後ろで組んでとりあえずは微笑んで彼が書類を確認するのを横目で見つめる。

「…おい…」

そう呼ぶ彼の声に反応して顔を上げて笑いを取り繕って応答する。

「ん?何?」

そう言うと彼は少しガッカリしたように言う。

「これいつもよりミス多いで」

あ…まじか。
早く直さないとな。そう思って彼に近ずき書類を受け取ろうとする。

『使えないな』

軽くグルッペンの声が鼓膜に響いた。

「…は?」

その声に思わず驚いて声を漏らすとグルッペンは不思議そうにしてから書類を胸に抱えて微笑む。

「俺がどうにかするからお前は休め」

『ほんと使えない。』

いつも彼らの…いや、彼の声で罵倒が脳裏に響く。

『死ねばいいのにな』

「ぁ…」

小さく漏れた綻び。

『死ね』

彼らの声が脳裏に響く。
ごめ、

『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね』

圧倒的な罵声に目の前の彼の声も聞こえない。

「あ"、あ"、あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"!!」

自分も耳を塞ぎながら叫び声を上げて地面にしゃがみこむ。ヤダなんで。
その姿にグルッペンは慌ててドアから駆け出して何かを言ったらしくて眩む意識の中遠くで彼の声が聞こえた気がする。

ーーー

「…?」

目を冷めると真っ白の天井とがやがやと話し声が聞こえる。
その中でもひときわ優しい声が上から降りかかる。

「あ、オスマン起きた?」

ペ神だ…起き上がろうとして身を起こすとすかさずベッドに押し返されて彼は口を開く。

「オスマン…さっきはどうしたの?」
『こんなやつの世話せなあかんのか』

さっき…頭痛がして先程のことを思い出そうとすると吐き気がして口を抑えて反射的に前のめりになってしまう。
終わることの無い罵倒…。

「…言えるところでいいからな」
『ほんまめんどくさいわ』

優しい声と罵声をグルッペンが呟いて顔を上げるとたくさんの人がベッドの周りに集まっている…って幹部全員おるとか…また迷惑かけてもうたやん…ダメだなぁ。

「…なんでも「マンちゃん嘘は辞めてや!」

すかさず鬱の声が響いて体を一瞬ふるわせて彼の方を見ると何故か泣いていた。

「何か…おかしいと思ってたんや…朝から…なのに言わないから…」

あぁ。泣かせちゃダメだ。
少し体を起こしてふわりと彼の頭を撫でると彼はしゃくりあげながら言葉を続ける。

「僕は…僕達は…助けたい…の…」

「…そっか」

微笑んで彼の方を見上げると彼は安心したように泣き止んでた。

「…助けられたいよ」

少し泣いてから笑った。

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