「大先生、何しとるんや」
カッターを手首にあてた状態で急いで頭をあげると震えた声でそう呟く緑衣のこれが立っていた。
「えっ…と」
見られたことでしどろもどろになりながら必死に言葉を探す。どうしたらいいか分からないいいいい。伸びきる思考にピリオドを打つように再度彼の声がこの狭い部屋の中で響く。
「死のうとしてたん…?」
その青ざめた顔で吐く言葉に怯えてカッターをカランと床にとりおとす。
「ど、どうなんや?」
必死で強がりを取り繕う彼に答えなくちゃ。そう思い喉からしぼりだしたような声を出す。
「死のうとなんか…
だが言葉は途中で打ち切られる。
「大丈夫俺にだけは嘘つかんといてや」
苦しそうに微笑む顔がやけに脳裏に鮮明に見えてなんとも彼のことを見るのが心苦しくなってしまう。目を伏せて小さく言葉を子供らしく言い放つ。
「…死のうとした」
地獄耳なのか分からないが彼は目に涙を浮かべて再び質問を重ねる。
「な、なんでや」
その無自覚な言葉に自分の首を絞められる。
「僕は弱いからや…強なりたかった…ゾムみたいになりたかった」
そう言うと彼は一瞬固まってからふわりと僕の頭を撫でる。さっと顔を上げると彼はぽろぽろ涙を流しながら微笑んでいた。
「くだらんなぁ…大先生…もう十分強いやんけ」
その、単純明快な言葉を聞くためにここまで生きてきた気がしてなんだか糸のほつれのようなものが解けた気がした。
だから顔を上げて頬を濡らしながら少しだけ言葉を舌に打つ。
「」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。