「もし大切な人がどこかに消えたらどうする?」
「何言ってんるんや」
からからと彼の少し高めな声が部屋に響く。
「大切な人がどこかに行ったらお前はどうするんや?」
「そんなの認めてあげるだけやろ」
服と畳が擦れる音がかすかにする。
「どういうことや」
「だって僕の大切な人はいつも僕を嫌いになるんやもん」
彼は淡く笑ってテーブルの上に出された炭酸飲料を喉に流し込む。
「そんなことあらへんよ」
「なんでそんなことがわかるん?」
少し苦笑いを浮かべて彼は問う。
「俺は大切じゃない?」
自分にしては少し踏み込みすぎたとか微かな思う。
「大切じゃないで」
彼はまたあの喉がひりつくような炭酸を飲み込んでから答える。
「全く大切やない」
ふっと笑ってこちらを見る。
「だから俺を嫌いにならんといて」
まどろっこしいことは嫌いなんだよ。
そう思いながら少しだけ笑いながら答える。
「当たり前やろ。俺もお前が大切やないから絶対どこにも行かんよ」
今でもその泣きそうな安心したような顔は脳裏に焼き付いている。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。