メガネを拭きながらため息をついて髪かきあげ、眼鏡をかけ直す彼を見て少しだけ微笑む私。
「ねぇ。ゆっくりの動画見たよ?なんか懐かったわ」
彼の言葉を無視するように自分本位の言葉を少し零した。彼は少し目を凝縮させてから不機嫌そうに目をそらす。
「だから…なんだ?」
…もう。そんなことを言ったらダメでしょう。彼の案外華奢な黒い手袋を纏った左手を手に取って目を細めて微笑む。彼は少し苦い顔つき。笑えない。
「もう俺はそこにゃ、戻れないだろ?」
やっと提出できた自己否定文。本当は、ほんとうは、戻りたいけどやっぱり1人で先に進むのもなんか違う気がするのよ。アタシ。やっぱり白色の彼と藤色の彼と神様の彼のことは待ってやれるのはアタシだけだから。
「そうだな」
やけに淡白な返事で淡々と述べられる。なんだか気後れしちゃうわ。自分が馬鹿に思えてきちゃった。止めてくれるとか期待
「でも、また共にゲームが出来たらいいとは…たまに思うゾ」
思考を切るように彼の小さく途切れる声が頭に籠る。
…本当にずるい人ね。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。