第26話

これ以上可愛くなられたら困る
7,517
2021/06/03 04:00
【杏side】
結々花ちゃんと唯月くんの関係が拗れてしまってから、もう半月が経とうとしている。

結々花ちゃんは、文化祭準備に追われて、忙しさを理由に唯月くんのことを忘れようとしているみたいだけれど、そんな簡単に消えてくれるわけがないってことくらい私にだって分かる。
桜庭 杏
桜庭 杏
どうしよう……
あと3日しかないのに
それに、もう3日後に迫った文化祭。

プリンセスコンテストが開催されてしまったら、結々花ちゃんの傷がもっと深いものに変わってしまいそうで、心配が絶えない。
中条 光
中条 光
唯月も意地になってるだけだと思う
中条 光
中条 光
ゆゆちゃん見つけた時の唯月、
今まで見たことないくらいに
活き活きしてたから
桜庭 杏
桜庭 杏
……お互い思い合ってるのに
どうしてすれ違っちゃうかな
見るからに素直じゃなさそうな唯月くんと、自分に自信のない結々花ちゃん。

いや、まぁ……確かに初めから上手くいくような相性ではなさそうだけれど。
中条 光
中条 光
……言えない気持ち、
俺はよくわかるけどなぁ
桜庭 杏
桜庭 杏
え?
中条 光
中条 光
好きって気持ちを伝えても
その先のことは分かんないじゃん?
桜庭 杏
桜庭 杏
それは……そうだけど
中条 光
中条 光
信じてもらえるのかな?とか。
伝えることで余計、離れてったら
どうしようかな……とか
桜庭 杏
桜庭 杏
……光くんでも、
そんなこと考えるんだ
"俺をなんだと思ってんの?"なんて、隣で珍しく真剣に語る光くんに、内心ドギマギしている。

……光くんは誰に対して、そんな感情を抱くんだろう。
***

【2年の教室前】
桜庭 杏
桜庭 杏
じゃあ、光くんお願いね?
中条 光
中条 光
杏ちゃんはさ、
俺が他の子に媚び売ってもいいの?
桜庭 杏
桜庭 杏
えっ?
当日のプリンセスを結々花ちゃんに譲って欲しい!と篠原先輩に頼むようお願いすれば、光くんはちょっぴり不服そうに私を見下ろした。
中条 光
中条 光
まぁ、いいや。
杏ちゃんの頼みだし
桜庭 杏
桜庭 杏
っ、
中条 光
中条 光
おーい、篠原さん
今、ちょっと話せる?
篠原 帆南
篠原 帆南
あ、中条(兄)くん!
やばい、すっごい似てる〜
中条 光
中条 光
(兄)くんって……
いつ見かけてもブレることなく綺麗な篠原先輩は、光くんと並んでも引けを取らない。
篠原 帆南
篠原 帆南
私に何か用事?
中条 光
中条 光
あ〜、そのことなんだけどさ。
実は文化祭当日のプリンセス、
やっぱ元の子に譲って欲しくて
中条 光
中条 光
勝手なこと言ってるのは、
篠原 帆南
篠原 帆南
え!!本当に……!?
中条 光
中条 光
えっ、
篠原 帆南
篠原 帆南
良かった〜!
実は、最近彼氏ができたの。
でも、プリンセスコンテスト
既に引き受けちゃってたから
今更辞めたいって言えなくて……
ホッとしたように微笑む篠原先輩に、唖然とする私と光くん。

でも良かった。
結々花ちゃんと唯月くん、ちゃんと向き合ってくれたらいいな。
***

【結々花side】

文化祭準備も大詰め。
クラスメイト
松田、巻き髪似合ってんね
松田 結々花
松田 結々花
ほ、ほんと?
……ありがとう
プリTubeで勉強したゆる巻。
今日は、自分でもびっくりするくらい綺麗に仕上がっておまけに化粧ノリも良くてハッピー。

おまけにクラスメイトに巻き髪を褒めてもらえたことが嬉しくて、つい口元が緩む。

もうひと頑張りしよう!と、気合いを入れ直して勢いよく振り返った私は、
松田 結々花
松田 結々花
───わっ、
突然、ふわりと腕を引かれ、そのまま誰かに抱きとめられた。私を包み込んだ香りに、顔を見なくても、それが誰なのか分かってしまった。
松田 結々花
松田 結々花
……い、唯月くん!?
中条 唯月
中条 唯月
なんなの、ほんと
松田 結々花
松田 結々花
……え?
中条 唯月
中条 唯月
諦めようとしてんのに、
これ以上可愛くなられたら困る
言いながら、背中に回される唯月くんの腕に私の全神経が集中する。
松田 結々花
松田 結々花
……そ、それって
───どういう意味?

プリ小説オーディオドラマ