【杏side】
結々花ちゃんと唯月くんの関係が拗れてしまってから、もう半月が経とうとしている。
結々花ちゃんは、文化祭準備に追われて、忙しさを理由に唯月くんのことを忘れようとしているみたいだけれど、そんな簡単に消えてくれるわけがないってことくらい私にだって分かる。
それに、もう3日後に迫った文化祭。
プリンセスコンテストが開催されてしまったら、結々花ちゃんの傷がもっと深いものに変わってしまいそうで、心配が絶えない。
見るからに素直じゃなさそうな唯月くんと、自分に自信のない結々花ちゃん。
いや、まぁ……確かに初めから上手くいくような相性ではなさそうだけれど。
"俺をなんだと思ってんの?"なんて、隣で珍しく真剣に語る光くんに、内心ドギマギしている。
……光くんは誰に対して、そんな感情を抱くんだろう。
***
【2年の教室前】
当日のプリンセスを結々花ちゃんに譲って欲しい!と篠原先輩に頼むようお願いすれば、光くんはちょっぴり不服そうに私を見下ろした。
いつ見かけてもブレることなく綺麗な篠原先輩は、光くんと並んでも引けを取らない。
ホッとしたように微笑む篠原先輩に、唖然とする私と光くん。
でも良かった。
結々花ちゃんと唯月くん、ちゃんと向き合ってくれたらいいな。
***
【結々花side】
文化祭準備も大詰め。
プリTubeで勉強したゆる巻。
今日は、自分でもびっくりするくらい綺麗に仕上がっておまけに化粧ノリも良くてハッピー。
おまけにクラスメイトに巻き髪を褒めてもらえたことが嬉しくて、つい口元が緩む。
もうひと頑張りしよう!と、気合いを入れ直して勢いよく振り返った私は、
突然、ふわりと腕を引かれ、そのまま誰かに抱きとめられた。私を包み込んだ香りに、顔を見なくても、それが誰なのか分かってしまった。
言いながら、背中に回される唯月くんの腕に私の全神経が集中する。
───どういう意味?
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。