鏡の中の自分は、ゆるハーフアップヘア。
唯月くんのおかげで、いつもより可愛くなった自分。
……そして、
私の背中を押す声がする。
……ギュッと強く強く拳を握りしめて、私は2人に小さく頷いた。
もう、"私なんか"なんて言いたくないから。
……2人が私を選んでくれたことに、もっと自信を持てるように。
***
───もう帰っちゃったかな?
生徒玄関には、志賀先輩の姿は見当たらない。
いつもなら、この辺りで友達と話してるのをよく見かけるのに……。
生徒玄関を出たところで、校門に向かって歩く志賀先輩の後ろ姿を見つけて、私の心臓がドキドキドキドキと早鐘を打つ。
あぁ、どうしよう。
今さらになってどうしようもなく緊張して来た。
だけど、今度こそ自分の殻を破りたい。
その想いが私を突き動かす。
私の声に振り向いた志賀先輩は、私に気づいて直ぐに笑顔で手を振ってくれる。
……その優しい顔に、心臓は痛いくらい軋んでいる。
自分でも分かるほど、曖昧な告白。
好きみたい……なんて、良く分からない言葉を口にして、恥ずかしさから思いっきり俯いた。
驚いている志賀先輩の声に、俯いたままコクコクと数回頷く。
あぁ、どうしよう……。
今すぐ走って、ここから逃げ出したい。
顔を上げればぶつかる視線。
少し困った顔で私を見つめていた志賀先輩は、申し訳なさそうに頭を下げて見せた。
***
───ザーーーッ。
志賀先輩の後ろ姿を見送ってすぐ、大粒の雨が容赦なく降り出して。
傘なんて持っていない私を、どんどん濡らしていく。
多分、これが失恋。
やっと恋を見つけたと思ったのに、その矢先に失恋なんて……。やっぱり、私なんかが恋をしちゃダメだったのかな。
この大雨にさえ、身の程を知れと言われている気がして、早く生徒玄関に逃げ込めばいいのに、動けないまま体はどんどん冷えていく。
突然、私を濡らしていた雨がやんで、よく知った優しい声がきこえた。
何を聞くわけでもなく、ただただ優しい唯月くんの声が私の中にスーッと入ってきて……。
せっかく、我慢してたのに……。
このタイミングで優しくされたら、
自分が雨のせいでびしょ濡れだとか。
これじゃあ、唯月くんまで濡れちゃうだとか。
周りの生徒の視線とか。
唯月くんがどう思うかとか。
そんなことは、一切考えられなくなって……ただひたすら、唯月くんに抱きついて泣いた。
そんな私の背中を、優しくさすってくれる唯月くんの手だけが、やけに温かかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。