第5話
編み込みチェンジ
───朝。
鏡の前で小さくため息。
昨日、唯月くんからオシャレを意識するために【ヘアアレンジして登校しろ】なんてミッションを与えられたのはいいけれど。
ヘアアレンジって……どうすればいいの!?
***
───昼休み。
いつも私を迎えに来る中条兄弟は、良くも悪くも目立ちすぎて、私が中条兄弟とプリンセスコンテストに出場するという噂は一瞬で学校中に広まった。
中には「なんで松田さん!?」なんて声も少なくないけど、自分でもなんで?と思うんだから、周りに思われたって不思議じゃない。
……と、最近は少しポジティブな考えも出来るようになった。杏に言わせれば、「ネガティブなポジティブ」らしいけど。私には難しすぎる。
私のクラスまでやって来た唯月くんの視線は、クラスの女子たちの熱い視線をシャットアウトして、朝、鏡の前で30分格闘した私の三つ編みヘアへと注がれている。
言われてみれば確かに。
今朝、クシで髪をとかした記憶がない。
……ヘアアレンジ、ヘアアレンジ、とそればかり気を取られて、"とにかく結う!"というところに意識が行ってしまっていた。
せっかく頑張って結んだ髪を、一瞬でサラッと解かれる。
そのまま、髪の毛を梳くように、唯月くんの綺麗な指が髪の毛を絡め取って……。
同時にクラスの女子たちから黄色い声が沸いた。
女子たちの黄色い声も、熱い視線も、唯月くんは全く気にも止めない。
さすが……普段から慣れてる人は違う。
に、日本の女は髪が命だって、聞いたことがあるけど。し、死んでるって……女としてヤバいんじゃ?
……あぁ、やっぱり私は、プリンセスになんてなれないTHE地味子。
髪の毛ボサボサで、ツヤのない、キューティクルが死んだ日本の恥。ダメだ、言っててかなり辛い。
そう言って、近くの椅子を自分の前にセッティングする唯月くんに、大人しく椅子に腰かければ、
唯月くんはどこから取り出したのか、コームで私の髪をとかし始める。
周りの視線が痛いくらい刺さって来るんですが。
これで静かにしてろ……なんて、拷問。
それに、慣れた手つきでサラサラっと私の髪の毛を扱う唯月くんの優しい手に、不覚にもドキドキしてしまう。
見せられた鏡の中の自分は、さっきとはまるで別人で、ゆるふわな雰囲気が可愛い綺麗な編み込みに仕上がっていた。
───シュッ。
フワッと広がる、甘い香り。
手厳しい唯月くんだけど、触れる手はいつだって優しくて。
そんな唯月くんを横目に、ほんのり香るヘアミストの香りが、ずーっと続けばいいのに……なんて思った。