───次の日。
昨日、唯月くんが言ってくれた言葉が嬉しくて、そればかり考えてしまう自分がいる。
唯月くんは、自然体でいいって言ってくれたけど、光くんからのミッションを無視することも……出来なくて。
意を決して、志賀先輩の教室まで向かうことを決めた私は、途中、何度も何度も自分に気合いを入れる。
***
───志賀先輩の教室前。
恐る恐る中を覗き込んで、探すのは志賀先輩の姿。
だけど、どこを見ても志賀先輩の姿は見当たらない……。
残念なような、ホッとしたような気持ちで来た道を引き返そうと振り向いた私は、───ドンッと鈍い音を立てて、誰かにぶつかってしまった。
同時に、無意識のうちに握りしめていたらしい練り香水がコロコロと床をころがっていく。
私より先にサッと練り香水を拾った志賀先輩が、私に向けて練り香水を差し出すから、私は反射的にそれを受け取った。
ふわりと嫌味なく笑う志賀先輩に、ついつい見惚れてしまう。……やっぱり、これは憧れじゃなくて、恋なのかな?
恋って、どんな感じなんだろう。
志賀先輩に対する、この気持ちが恋……?
志賀先輩に会いに来たなんて、冗談でも言えなかった。おまけに、練り香水の香りが志賀先輩まで届いたのかすら分からない……。
……上手くいかないもんだなぁ。
***
───唯月side.
自販機から戻った俺に、いつもの調子で悠燈が寄って来る。
この時点で、直感的に何かが引っかかって、素直に自分を訪ねて来たとは思えなかったけど、
悠燈の言葉を聞いて、結々花が誰に会いに来たかなんて、嫌でもわかってしまった。
……自然体でいいって言ったのに。
わざわざ光のミッションのために悠燈に会いに来やがったな。
モヤッとした何かが俺の中で広がっていく。
ったく、光もくだらねぇことしてんじゃねぇよ。
悠燈の言葉に、素直に頷けない俺がいた。
……いい子、か。
確かに、結々花はいい子なんだろうけど。
結々花を語るには、あまりに結々花のことを知らなすぎる自分に気付いてしまったから。
って、これじゃ俺が結々花をもっと知りたいと思ってるみてぇじゃん。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。