第10話
デートなんて聞いてない!
───今日は終業式。
高校一年生の一学期は、あっという間に過ぎ去って、気付けば夏真っ盛り。
明日から、楽しい夏休みが始まろうとしている。
終業式が終わって、生徒玄関から校門までの距離を走る。
私の声に、振り向いた唯月くんは、私に気付くと立ち止まり小さく首だけ傾げてみせる。
英語を教えて欲しいと頼んだあの日から、唯月くんは本当に毎日、私に英語を教えてくれた。
教え方もとっとも分かりやすくて、自然と耳に入ってくる唯月くんの声で再生された単語は、なぜかすんなり覚えられた。
なんだろう。
最近少し、毎日が楽しい。
ひとつずつ埋まっていくパズルのピースみたいに、私に欠けてるものが、本当に少しずつ満たされていくような感覚。
……もっと、頑張ろうって。
もっと、可愛くなりたい。そう思える。
***
───夜。
ベッドの上でくつろいでいた私に、突然届いたメッセージ。
【中条 光:ゆゆちゃん、18日って空いてる?もし良かったら一緒にショッピングに行こうよ😎俺が似合う服、探してあげる!】
光くんらしい文面に、光くんらしい絵文字。
明日から始まる夏休みに、ほんの少し浮かれている自分。
メイクの勉強だけじゃオシャレにはなれないし。せっかくだから、光くんに似合う服を探してもらうのも悪くないかもしれない。
***
───18日。
今日は約束のショッピングの日。
てっきり勝手に光くんと、唯月くんと私、3人だとばかり思っていたのに、待ち合わせ場所に唯月くんの姿はなく。
甘いスマイル全開の光くんに『今日は俺とデートしよっか』なんて言われてから、早数時間。
デートなんてしたことがない私はとにかく緊張してばかり。
オシャレなカフェで美味しいパンケーキをご馳走になったり、デパートでは可愛いワンピースを選んでもらったり。
デートと言ったらUFOキャッチャー……。
そ、そういうものなのかな。
差し出されたモフモフうさぎのマスコット。
控えめに手を差し出せば、光くんはそっと手のひらに乗せてくれた。
「べっ」と舌を出して、冗談っぽく笑う光くんに、どこまで本気なんだろう?と恥ずかしさが込み上げてくる。
イタズラっ子でヤンチャな光くんの笑顔に、つい私まで笑ってしまう。
私とのデートを自慢されたところで、唯月くんは興味なさそうだけど。なんて思ったら、ほんの少し胸がチクッとした。