あの日───。
志賀先輩に振られ、土砂降りに降られたあの日。
抱きついてすすり泣く私を、唯月くんは突き放すことなく、いつまでも優しく背中をさすってくれた。
何も聞かず家まで送ってくれたけれど、唯月くんはきっと、私が志賀先輩に振られたことに気づいてるんだろうな。
杏には、志賀先輩に彼女がいてバッサリ振られてしまったことをすぐに報告した。
私が傷ついてるんじゃないかと心配してくれる杏の優しさに助けられて、志賀先輩のことはなるべく考えないように……と思っていたけど。
気付けば、志賀先輩じゃなくて唯月くんの優しさを思い出していた。
本当に、あの2人のおかげだと思う。
プリンセスコンテストで優勝するって目標に向かって、いつだって全力で私を可愛くしてくれる。
……だから、私もそれに応えたいって思う。
もっと、もっと、変わりたいって思う。
私が頑張ることが、あの2人への恩返しにもなると信じて。
***
───恋は可愛くなるスパイス。
なぜか、杏の言葉が頭から離れない。
恋をすれば、可愛くなれるってことだよね。
……それって本当かな?
こんなこと唯月くんに相談することじゃない気もするけど、私の言葉の続きを待っている唯月くんに、気付けば静かに口を開いていた。
私の言葉に少し考えるように黙り込んでしまった唯月くんを見て、慌てて言葉を続けたけれど、
次の瞬間、唯月くんはその綺麗な瞳で真っ直ぐに私を射抜いた。
極めて真面目な顔で告げる唯月くんに、私は思い切りフリーズしてしまっている。
……だって唯月くんを意識して生活するなんて、そんなの……本気ですか!?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!